そんなザ・下町の東向島を出ると、東武の電車はゆらりとカーブしながら鐘ケ淵駅に着く。鐘ケ淵、いわずと知れたカネボウの名の由来にもなっている鐘淵紡績があった町である。もちろん工場はとうの昔になくなって、いまは住宅地の中の駅である。駅のすぐ脇には踏切があって、昭和の商店街も駅前にあるような、そんな駅だ。
「鐘ケ淵駅も東向島駅と同じで、基本的には下町ですよね。すぐ近くに川があるからなのか、一度ホームでカニを見たんです。ちっちゃいカニを。駅の隣の飲み屋さんから逃げてきたのかなと思ったんですけど(笑)、駅員に聞いたらどうやってかわからないけど川からやってきて、ときどき現れるらしいんですよ」(岩波さん)
いくら下町とはいえ駅のホームでカニさんと出会うとはまさに奇跡。昭和はじめの一時期、木場の埋め立て地に洲崎球場という野球場があって、満潮時にはグラウンドをカニがはいずり回っていた、などというホントかウソかわからないエピソードを聞いたことがあるが、鐘ケ淵駅のカニは現代のお話。出会えた人は、きっといいことがあるに違いない。
金八先生の舞台の今
鐘ケ淵駅からは大きく左にカーブして荒川沿いへ、ちょうど墨田区と足立区の区界を跨いだところに金八先生でおなじみの堀切駅がある。駅のすぐ東側(つまり上り線側)は荒川の土手、西側(下り線側)には東京未来大学という大学のキャンパスがある。
上りホームと下りホームそれぞれに改札口がある構造なので、上り電車から降りた大学生たちは跨線橋を渡ってやってくる。東京未来大学はかつて金八先生の舞台、桜中学のロケ地として使われていた場所にある。
「金八先生のスタッフや武田鉄矢さんもよく行ったというお店も駅前にあったんですけど、いまはもう閉まっていますね。あとはというと……東側はもう荒川ですし、あとは住宅地があるくらいでとくになにもないんですよね」(岩波さん)
2020年度の1日平均乗降人数はわずか2755人。今回旅した下町区間どころか、スカイツリーライン全線(つまり東武動物公園駅まで)でもいちばんお客の少ない駅である。ただ、取材時にはけっこうな数の大学生が行き交っていたから、きっとお客の大半が学生たちなのだろう。
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