SUBARUと酪農、徳川吉宗が交差する「嶺岡牧」とは 大手乳業ともつながる里山スタジオの地の利

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日本煉乳の創業者は森永太一郎氏で、初代社長は松崎半三郎氏である。(森永乳業 サステナビリティ本部 広報IR部提供の資料より)

このように戦国時代、江戸時代、そして明治維新を経て変化していった嶺岡牧や、その周辺での酪農事業の経緯、さらには世界の酪農の事情について詳しく学べる場が、千葉県酪農のさとだ。

愛宕山(408m)の中腹に位置する広さ約3.5ヘクタールの丘陵地帯に、千葉県が酪農のさとを開設したのは、1995年11月のこと。その後、2005年8月からは、住民サービスの一層の向上と施設の運営経費の節約などを図る目的として、第3セクターの株式会社ちば南房総が指定管理者となっている。

研究家に聞く「嶺岡牧」の地歴

千葉県農林水産部畜産課は、「酪農のさとで嶺岡牧に関する講演会やミニ企画展、講座の開催のほか、観光客等を対象に、自然の恵みに感謝する“酪農のさとまつり”等を開催して、より多くの方々に足を運んでいただけるようさまざまな取り組みを行っている」と、酪農のさとと嶺岡牧との密接な関係を説明する。

嶺岡牧の研究については、地元住民が中心となった活動もある。「嶺岡牧を知って活用を考える会」や一般社団法人「嶺岡牧士家保存活用協会」などだ。

これら会が主催する「嶺岡紀行を読む」という集いが、嶺岡牧士家保存活用協会・代表理事/会長の石井浩氏のご自宅で開催され、その模様を取材した。

主催関係者の中で、日暮晃一氏は元東京大学大学院教授の農学博士で、2010年から千葉県の新たな観光事業に伴い、嶺岡牧の基礎調査を行った、嶺岡牧について豊富な知識を持つ人物だ。

嶺岡牧の研究者である農学博士の日暮晃一氏と嶺岡牧士家保存活用協会・代表理事/会長の石井浩氏(筆者撮影)

研究成果の一部は、千葉県酪農のさと/嶺岡牧研究所が2013年6月に発行した『徳川吉宗再興の江戸幕府直轄牧 嶺岡牧』(著者:日暮晃一・千葉いずみ)にまとめられている。

日暮氏は「嶺岡牧は、近代の酪農の基点だ。産業革命ともいうべき貴重な史跡である」として、さらなる現地調査の必要性を主張する。また日暮氏によると、SUBARU里山スタジオがある場所は嶺岡牧の一部で、嶺岡西二牧に属する。

嶺岡牧は、現在の鴨川市の中心である長狭平野の南側の丘陵地帯に沿って、大きく4つの区域があり、海側から順に、嶺岡東下牧、嶺岡東上牧、嶺岡西二牧、嶺岡西一牧と続く。さらにそれらの少し南側に、桂木牧があり合計5つの牧で構成されている。

嶺岡東牧と西牧の北側は、丘陵地域の傾斜部に沿うように、石や土で人工的に作った囲いである野馬土手が築かれている。

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