「急激なダイエット」がリバウンドする科学的根拠 運動するほど代謝量が下がるという衝撃の逆説
このような急激かつ極端な減量に目を留めたのが、アメリカ国立衛生研究所に属する国立糖尿病・消化器疾病・腎疾病研究所のケビン・ホール上級研究員だ。代謝を専門とするホール氏は、短期間に大幅な減量を行うと一般に安静時代謝量(生命を維持するために日々消費される基準カロリー)が急低下することを知っていた。安静時代謝量の低下は、カロリー消費量全般の減少につながる。
その一因と考えられていたのが、ダイエット中に起きる筋肉量の減少だ。筋肉は脂肪より多くのカロリーを消費するため、筋肉が多いほど一般に代謝量は大きくなる。こうしたことから、ホール氏は次のような疑問を持った。「ザ・ビゲスト・ルーザー」参加者は摂取カロリーを減らすが、それと同時に行われる異常なまでの運動は、筋肉と安静時代謝量の維持に役立っているのか――。
ホール氏の研究チームがそれを確かめる調査に乗り出したのは、10年以上前。2014年に始めた研究では、胃バイパス手術で摂取カロリーを減らして大幅に減量した男女13人と、食事制限と運動の組み合わせで一気に体重を落とした「ザ・ビゲスト・ルーザー」出場者13人を比較した。
安静時代謝量は運動をやめても低いまま
予想どおり、バイパス手術を受けたグループでは脂肪だけでなく筋肉も落ちていたが、「ザ・ビゲスト・ルーザー」出場者は筋肉をほぼ維持しており、減ったのは主に脂肪だった。しかし、安静時代謝量は双方のグループで低下しており、低下度合いもほぼ同じだった。筋肉を維持しているかどうかにかかわらず、である。
ホール氏の研究チームは、この結果に驚いた。そしてその混乱は、番組出場から6年後に出場者14人の代謝をあらためて調べた2016年の研究でさらに深まることになる。そのころには代謝は元の水準に戻っているという予想が裏切られたためだ。
積極的な減量をやめると、安静時代謝量はほとんどの場合、それなりに増加する。リバウンドして体重が増えれば、なおさらだ。体の大きな人は、そうでない人に比べ基準消費カロリーが多い。この研究の時点では、調査対象となった出場者のほとんどがリバウンドを起こしていた。ところが、安静時代謝は低いままで、1日の消費カロリーは番組参加前に比べ平均で約500キロカロリー少なくなっていた。