"無敵"GAFAが「中国テックに負ける」最悪シナリオ 「AIという主戦場」でGAFA+Xが立たされた窮地

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しかし、中国は違います。国家が先んじて、国民のデータを集めているほどですから、中国のAIばかりが進化して、アメリカやヨーロッパが置いていかれるという構図になりかねません。

中国は、国外市場を気にしなくても、国内だけでビジネスが成立します。ファーウェイもアメリカから制裁は受けましたが、国内だけで十分やっていけるので、実は業績が向上しています。

中国の人々は、監視社会を受け入れてもいます。文化大革命など、社会の信頼を破壊する時代が続いたことで、これまでは、目下の金儲けのために人々を騙すということが平然とまかり通っていました。

ところが監視社会になり、あらゆる場所に監視カメラが取り付けられ、その人の行動がインターネット上で評価されることになりました。その評価が実生活にも影響を与え、人々は善行を積むしかなくなり、悪さをしなくなっています。

こうなると、今後のAIの進化は中国が中心になる可能性もあります。テックの発展とプライバシー保護は、トレードオフになっています。このジレンマをどうクリアするのかは、難しい問題です。

日本のテック企業はどう戦っていくべきか

日本でも、かつてはテック企業をどう育成するかが課題でしたが、2010年に入った頃から、誰もそれについて言わなくなりました。

楽天、サイバーエージェント、ライブドアなどが登場した当時、彼らは巨大プラットフォーム企業を狙っていました。しかし、今は「GAFAがいるから無理だ」となり、そんなプラットフォームを狙う起業家はいません。

話題は「海外大手ネット企業とどう付き合うのか」ということになり、SNSも、以前はミクシィなどがありましたが、今はすべて外資です。

「ウェブ2.0」と言われていたものを、アメリカのネット企業にとられて牛耳られた結果、成長機運はモバイルゲームへと向かいました。ソシャゲは、貧困ビジネスとも言われますが、とても儲かったわけです。

起業家は、いくら稼いでいるかという話しかしなくなりました。以前は、「世界を変えよう」と語る人がいたのですが、夢がなくなって、それしか言えることがないということでしょう。

巨大テック企業を独禁法違反で分割するべきだという主張もありますが、そうなれば、日本からも再び、プラットフォームを狙う企業が出てくるかもしれません。

本書には、GAFA以外にも将来の可能性のある企業がたくさん登場します。未来の我々の生活がどうなっていくのかというイメージを喚起する力が強い1冊です。

(構成:泉美木蘭、後半へ続く)

佐々木 俊尚 作家・ジャーナリスト

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ささき・としなお / Toshinao Sasaki

1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで、幅広い分野で発言を続ける。最近は、東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮らしを実践。『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)、『時間とテクノロジー』(光文社)など著書多数。

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