たとえば、半導体の工場であれば設備投資を意思決定してから稼働まで1年以上かかります。ゆえに需要を的確に予測してタイミングよく設備投資することで、大きな収益の差が出てきます。こうした設備投資の循環を半導体業界ではシリコンサイクルと言います。当然ながらシリコンサイクルの周期で需要の上がる1年以上前に設備投資を決定することが重要。その「前倒し」の見極めに、経営の力量が問われることになります。
そう考えてみれば、人材も採用してから戦力になるまでには時間がかかります。よく「うちの会社では1人前になるまで3年はかかる」と、自慢げに語る人を見受けます。でも、それが事実なら、採用した人材は景気回復時には戦力として間に合わないかもしれません。あるいは、戦力になるタイミングには景気が下降期で余剰戦力かもしれません(冒頭に登場した急募の求人などはかなり心配です)。まさに人材採用の負のスパイラル。そんな状況を避けるべく、設備投資のように前倒しで採用に取り組むべきでしょう。
かつて見た「役職停滞」の悪夢、再び?
続いて、2つめの問題が採用数の凸凹から起きる弊害。業績が行き先不透明な状態で先行投資的に人材採用する会社は、「まず」ありません。採用数を抑制する場合がほとんどです。取材した食品機械製造業の会社は、東日本大震災やリーマンショックなどで景気が悪くなった時期には、採用をゼロにした時期もあったとのこと。
「現有戦力で危機的状況を乗り越えよう!」
と社内を鼓舞してしのいだようです。ただ、景気が明らかに回復して仕事が増えて、人手不足になれば採用を再開。さらに
「これまで我慢した分も含めて、多めに採用しよう」
とゼロから十数人を急募する極端な動きをしたようです。ただ、こうしたメリハリのある採用によってひとつの問題が生み出されました。それが
《32歳の社員は50人で、28歳の社員は数人》
と年代別人口ピラミッドの分布が凸凹状態に。
ちなみに当方が勤務していたリクルート社もかつて、年代別人口ピラミッドが凸凹状態になっていました(現在の人口ピラミッドではありません)。振り返れば、新規事業を果敢にするべく大量採用をしたのが1980年代前半。毎年のように1000人規模で新卒採用を行っていました。ところが不動産事業の失敗で大きな負債を抱えたことが発覚すると、新卒採用はわずか数人に減少。まさに年代別人口ピラミッドの凸凹。この凸凹は組織に悩ましい弊害をもたらしました。
その弊害とは役職の渋滞。先ほどのリクルート社のケースでも、役職渋滞が起きました。人材を大量採用すると、組織をマネジメントする人材が不足。そこで、急ごしらえの「抜擢人事」で管理職が急増。中には入社4~5年目で管理職に登用される人もいたくらい。
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