日本は「イスラム国」掃討に行きたがっている 笠井潔×白井聡、『日本劣化論』延長戦(後編)

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白井 聡 シライ サトシ 1977年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。現在、文化学園大学助教。専門は政治学・社会思想。『未完のレーニン』(講談社選書メチエ)『「物質」の蜂起をめざして』(作品社)『永続敗戦論』(太田出版)がある。

白井:あの事件に関してすごく奇妙だなと思うのは湯川氏のライフヒストリーです。どうやら波乱万丈の人生で苦労している方だと思います。

ミリタリーショップをやっていたが、商売として失敗して、その時に悩んで自殺未遂をおこしている。その自殺行為が性器を切断するというものだったというのです。おそらくは性同一性障害を抱えていたんじゃないかと言われます。その後、女性的な名前に改名している。

軍事性が男性性とつながっていると仮定するならば、もともとミリタリーマニアだったわけで、それを仕事にまでしたわけですから、少なくとも傍目には男性性の強さを感じさせます。ところが、その男性性に本人は違和感があったようで、性器を切り落とそうとした、つまり男性性を否定した。しかし、その後民間軍事会社をつくる。自分の男性性に苦しんでそれを葬り去ったのに、民間軍事会社という男性的なことをはじめているんです。しかもそれは、笠井さんがおっしゃったようにとても奇妙なもので、真面目な事業には到底見えないわけです。

アメリカなしではたてない不全国家日本

白井:このような男になりたいんだが、なれない、さりとて女にもなれないというセクシャリティーの在り方は日本の保守勢力の在り方そのものだと思います。
 そもそも親米保守という言葉が変です。保守っていうんだから愛国者のはずなんですが、日本に対する愛情よりアメリカに対する愛情がまさっている。だから気持ちが悪い。では彼らがアメリカ的な民主主義や自由主義の観念を受け入れているかというと、価値観をみるに受け入れていない。しかしそれをアメリカの面前ではいえない。

総じていうと、親米保守のナショナリズムはアメリカによって成り立たされているわけです。先ほど笠井さんから欠損という言葉が出ましたが、欠損をメタファー的に言い換えれば、それは性的不能というイメージで語れます。

国家の主権で考えた場合、明らかに一部欠損を抱えている。つまりは軍事の行使について厳しい制約を課されていることが欠損となっている。そして、軍事性というのを男性性と読み替えるならば、ある種のインポテンツといえます。もう一度勃たせたいが、自分で勃たせられないから、アメリカというバイアグラを飲むのが親米保守のやり方でした。これが永続敗戦レジームを清算できないなかでどんどん捻じれていった。

戦後、主権に欠損を抱えたままでよしとする親米軽武装が吉田茂のスタンスでした。それに対して、鳩山一郎や岸信介はそれは気に食わないと思ったわけです。負けて悔しいからどうにかして、回復してやろうと。

まだこの時点では、戦略的な親米で、反米要素が強かったわけです。ところが世代を経つにつれ、戦略的親米か本当の親米かわからなくなってくるんですね。中曽根あたりになると、日本列島はアメリカの不沈空母といい、いよいよ安倍の世代になると、親米感情が非常に安易な反米スタンスに転じる気配もあります。本音レベルではサンフランシスコ体制は勝者の押しつけで気に食わないとおもっているわけですから。これは日本社会全体に当てはまるのかもしれません。最近読んだ記事によれば、若年層の右傾化が危惧されているけれど、嫌韓中本ブームを支えているのは、50代、60代の男性のようです。だからジジウヨがやばいという話なんです。これって、その年齢からの男性機能の低下が関係しているんじゃないでしょうか。

男性の強さを失ってくる、その時、国家の軍事力が強いと自分の男性性が回復されたような気がするメンタリティーがあるのではないか。だから右傾化するというのは生物学的本能に基づいている可能性があり、大変やっかいなものです。

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