日本は「イスラム国」掃討に行きたがっている 笠井潔×白井聡、『日本劣化論』延長戦(後編)

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笠井 潔●1948年生まれ。小説家・評論家。小説に『サマー・アポカリプス』(創元推理文庫)『オイディプス症候群』(光文社文庫)『吸血鬼と精神分析』(光文社)、評論に『新版 テロルの現象学』(作品社)『例外社会』(朝日新聞出版)『8.15と9.11』(NHK新書)がある。

笠井:治安状態を悪化させないために、占領軍がパトロールをする。このパトロール中の米兵が、路肩爆弾や自爆攻撃や狙撃などによって次々と死んでいく。イラク戦争でアメリカが4000人の犠牲者を出したとして、戦争での死者は1000人ほど、あとの3000人は戦後の治安維持活動での死者です。

パトロールに民間軍事会社のガードマンを使うという手もありますが、国際法に拘束されないガードマンは、民間人を大量殺傷しかねません。実際、そういった事件が起きていて、裁判にもなっています。ようするに民間軍事会社が万能とはいえないわけ。

占領軍の出血を減らしたいアメリカは、まじめで民間人を安易には殺傷しない自衛隊を、米軍を代行する優秀なパトロール部隊として使おうとするでしょう。ようするに集団的自衛権の行使容認とは、米兵の弾よけとして自衛隊を差しだすということです。パトロール要員に専門的で高度な軍事知識や能力は必要ありません。この点で、徴兵された兵士は現代戦に無用だという意見は空想的です。

白井:今の話は現実的で怖いですね。それにしても、安倍に代表される勢力がなにがしたいのかと考えた時、答えは実は単純だと思うんです。それはとにかくもう一度戦争してみたいということです。

しかし、さすがに隣国へ攻め入るわけにいかない。国際的にも国内的にも認められた戦争でなければならない。だから、集団的自衛権の行使が、戦争にいく可能性を一番高める手段なのです。日本政府は、まさに戦争に巻き込まれることを求めています。

問題はなぜそこまで戦争をしたいのか? 説明として武器輸出などの軍事産業といった戦争経済の話がありますが、これで飛躍的に景気がよくなるか疑問です。とすると、動機の根源は、合理的には説明できない不合理なものとして解明されなければいけません。

積極的平和主義の象徴

笠井:少し話がずれますが、イスラム国に捕まった日本人がいますよね。湯川という人は、なんて愚かなんだろうという意見が目に付きますが、あの人は現代日本人の鏡ですね。

白井:私もこの人は安倍さんの言うところの「積極的平和主義」の表れだと思いましたね。

笠井:あの人が愚かに見えるのは、私たちが愚かだからだと考えるほうがいいでしょう。「民間軍事会社」という名の民間軍事会社をつくっていたり、いろいろとおかしい部分はあります。これは「小説」というタイトルの小説と同じですよね。ようするに、メタレベルとオブジェクトレベルが区別されていない。この区別がなければ、パラドックスと論理的混乱に陥るのは不可避です。

アメリカと戦争をする気もないのに、東京裁判を公的な立場から否定するという自家撞着こそ、湯川氏の言動によって正確に映し出されています。私たちには欠損の感覚があるんじゃないでしょうか。その一つに、軍隊をもっていないことをあげる人もいます。安倍首相はその筆頭。この欠損感覚が軍事や戦争へのファンタジーを生じさせる。

ISに捕まった人が愚かにみえるのは、なにかに急き立てられてやったに違いないのだけれども、それがなんであるのかという自己省察に達し得ないからでしょう。自撮り動画で、「銃をもって危ないところにいます」と語っていますが、意気揚々としているわけでもなく、どこかしら自信なげな表情なんですね。大澤真幸氏なら、これを「リアルへの逃走」というでしょうが、こうしたあり方が私たち自身を映していると感じます。

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