「日本の劣化」、安倍政権が加速させている 笠井潔×白井聡、『日本劣化論』延長戦(前編)

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笠井:この安倍内閣、女性の力を活用するとかいっているわけですが、入閣した女性は良妻賢母の伝統を守りましょうという立場のようで、なんかねじれてますね。  

笠井 潔●1948年生まれ。小説家・評論家。小説に『サマー・アポカリプス』(創元推理文庫)『オイディプス症候群』(光文社文庫)『吸血鬼と精神分析』(光文社)、評論に『新版 テロルの現象学』(作品社)『例外社会』(朝日新聞出版)『8.15と9.11』(NHK新書)がある。

高市早苗氏が議員になったばかりの時に、「私は生まれていない頃のことに責任はない」、つまり戦争責任はないと公言しました。

すでに国会議員になっていたのに、公人の立場と私人の立場の区別がまったくついていない人なんだと驚きました。日本を公的に代表する立場の人間は、日本政府が結んだ条約や対外的な声明などの態度表明に反することを、発言してはならないはずです。そういう初歩的なことがまったくわかっていない人なんだなと思いましたね。

しかし、今回の内閣は、安倍首相を先頭にそういうタイプで占められています。閣僚の多くは靖国神社参拝派や東京裁判否定派です。東京裁判を否定するのはサンフランシスコ講和条約の否定を意味し、それはアメリカと戦争状態に入ることを意味します。

アメリカにしてみれば、講和条約前に戻るということは、日本を占領状態に戻すことを意味します。しかし、この単純な理屈が理解できずに、安倍内閣の閣僚は東京裁判がけしからんとかいうわけです。もちろん、対米戦争を再開する決意で、サンフランシスコ講和条約を破棄するというのであれば、立場としては首尾一貫しますが、とてもそんな度胸はありそうにない。

白井:新しい安倍政権はいわゆる保守主義の傾向が強いと言われてきましたが、もう保守という言葉ではくくれません。端的にいえば極右政権です。

在特会系の諸団体と今回新任された閣僚の関係を示唆する情報が色々と出てきています。挙句の果てには、関西の在特会幹部で今は逮捕された増木重夫と安倍首相とのツーショット写真まで出てきた。国際スタンダードからみると、極右団体と政府は価値を共有しているとみなされてもおかしくありません。これは本にも書きましたが、これを続けていくと海外メディアが日本をデモナイズするという方向へ進んでいきかねません。

安倍首相はなにを守ろうとしているのか

白井:保守主義者を自認している中島岳志さんは、保守主義の本義からすれば、安倍内閣は全然保守じゃないとおっしゃっています。それは確かにそうなのですが、一方で安倍さんがなにかを一生懸命守ろうとしていることも確かです。では、なにを保守しようとしているのかを考えると、「永続敗戦レジーム」でしょう。でも、永続敗戦レジームは冷戦構造あってのもののため、冷戦構造が終わる1990年あたりから、本当は存続不可能なわけです。だから、解釈改憲にみられるようにきわめて強引な政治手法をおこなわなければ維持できなくなっているのでしょう。

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