隠れたネットの巨人、リクルートのジレンマ 迫り来る「破壊的イノベーション」への危機感

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たとえば住宅情報「SUUMO」の場合、SUUMOの情報誌やサイトを見てくれた(リーチできた)個人が大量にいたとする。その後、物件の見学に予約を入れてくれた人、次に実際に見学に行った人と絞られていき、最後に住宅の購入者となる。不動産会社からすると、住宅の広告を何人の人が見てくれたか、その後、予約が何件入って、何人見学に来てくれて、最終的に購入に至ったのは何件か、となる。

カスタマー(個人)とクライアント(事業者)とを自社メディアでつなげ、マッチングの数が増えれば増えるほど、リクルートの価値は上がる。売り上げ、利益は増える。非常にわかりやすいビジネスモデルだ。

そのため、戦い方も実にシンプル。リボン図の両端である、カスタマーとクライアントの数をとにかく増やす。そして、予約、見学、成約などのコンバージョンの率をどれだけ高めるか――である。

リクナビなど人材メディア事業、SUUMOやゼクシィなど販促メディア事業のいずれも増収し、経営指標であるEBITDA(「営業利益+減価償却費+のれん償却額」)も増加。現在でも依然、業界トップレベルの事業を展開する。

リクルートの事業においてネットの比重が増した後も、紙の時代と同様に稼ぎ続けていられるのは、すなわち、リボン図のビジネスモデルが、ネット、スマートフォンの時代においても展開できたということにほかならない。

リクルートにとっては、紙やネットといった媒体の種類は、さほど重要ではなかったとも言える。ビジネスモデルさえ壊さなければ、問題はない。

成果を“貪欲に”見える化する

リクルートが強くこだわることのひとつに、1マッチング単位の広告費=「CPA(コスト・パー・アクション)」というものがある。1回カスタマー(個人)とクライアント(事業者)を引き合わせた場合に、いったいいくらでクライアントに広告を提供できているのかということを表す。

広告を掲載した翌日、1週間後、1カ月後、CPAがどれくらいか、クライアントにとって競合よりも割高ではないか、割高の場合、リクルート側がどうコストを下げるべきか、つねに執念深くにらみを利かせてきた。そのために、担当者は日々サイトのデータを追い、電話をかけ、何度も粘り強く足を運ぶ。CPAは、社長から新人まで一貫した考え方であり、営業戦略、商品戦略の会議でも日常的に飛び交う単語だという。

「紙がネットに変わろうが、スマートフォンに変わろうが同じ。創業以来、1マッチング当たりいくらいただいているのか、その計算にしつこくこだわり、徹底してきた」と、今村氏も当然のことのように話す。

リクルートのネット事業は、そのほとんどが広告モデルであり、成果課金は「じゃらんネット」など、わずかしかない。だが実態は、紙の時代から、いわゆるどんぶり勘定で広告を売るのではなく、つねに成果を徹底して“貪欲に”見える化してきたことがわかる。多くの企業が苦しんでいる紙メディアのネット化だが、リクルート自身には、特別なイノベーションをしたという意識がないようだ。

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