"ネスカフェ復権"の裏に「古典的戦略」?

コーヒー×定石が生んだ、新しい儲けの仕組み

ここでネスレは、大胆な決断をした。「オフィスで仲間と、ネスカフェを飲みたい」という人に手を挙げてもらい、コーヒーマシン「ネスカフェバリスタ」を無償で貸与することにしたのだ。

カートリッジの代金は、その手を挙げた本人が、個人のクレジットカードで立て替えて支払う。企業の複雑な購買プロセスをいっさい介さずに、オフィス市場を攻略するビジネスモデルを編み出したのである。このようにしてバリスタを使う人を、ネスレは「ネスカフェ アンバサダー(大使)」と命名した。オフィスの中で、ネスカフェのコーヒーを自ら周囲に広める「親善大使」を生み出したのだ。

商品を無償で提供し、別のところで稼ぐビジネスモデルを「フリーミアム」と呼ぶ。ネスレは「ネスカフェバリスタ」で作り上げたジレットモデルを一歩進めて、なんとこの「フリーミアムモデル」に進化させたのである。

ネスレの発表によると、アンバサダーは2014年8月末現在で14万人(ネスレ日本 2014年下半期事業戦略発表会 2014年8月27日より)。ここで、ちょっと大胆に推計してみよう。 1人のアンバサダーの周囲で、仮に1日10杯のコーヒーが飲まれているとする。すると、1日で140万杯。1杯が20円なので、「ネスカフェ・アンバサダー」の売り上げは1日当たり2800万円ということになる。

この数字がどれだけすごいか。なんとスタバ84店舗分もの年間の売り上げに相当するのである(スターバックスは日本全国で1034店舗展開しており、2014年3月期の売上高は1257億円。1店舗当たりの売り上げ1日33.3万円だ。84店舗の売り上げは2800万円になる。数字の出所は、スターバックスコーヒージャパン、2014年3月期 決算説明会資料)。

戦略の定石を知ることは、革新につながる

ネスレはジレットモデルをコーヒー業界に当てはめ、「バリスタ」モデルを編み出した。さらに消費者と企業の購買行動の違いを把握したうえで、自社の強みを生かしたフリーミアムモデルとして、「ネスカフェ アンバサダー」を生み出したのだ。

コーヒー業界を題材にしたビジネス戦略については、永井氏の著書『戦略は一杯のコーヒーから学べ!』にも詳しい

しかしいずれも、古典的とも言える基本中の基本のマーケティング理論だ。なかには「その理論ならよく知っている」という人もいるだろう。しかしネスレの日本人スタッフたちは、これらを単なる知識に留めなかった。これらの理論を組み合わせて、ネスレ本社も注目し、全世界展開を検討するほどの革新的なビジネスを生みだしたのだ。ちなみに2013年、「ネスカフェ・アンバサダー」は日本マーケティング協会から「日本マーケティング大賞」を受賞している。

定石をバカにしてはいけない。戦略の定石の引き出しを多く持ち、目の前にあるリアルなビジネスに適用することで、大きな革新を生み出すことができるのだ。

(撮影:尾形文繁)
 

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