1990年代前半に経営危機に陥ったIBMは、事業展開する世界170カ国で成功し続けるためには、市場の多様性を真に理解し、社員たちが多様な考え方や文化を尊重し合うことが重要と考えた。そうして、障害を持つ社員、女性、民族、GLBT(ゲイ、レズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダー)のグループに分けて責任者を任命し、ダイバーシティ変革を進めていったのだ。その後、IBMが大復活を遂げたのは、みなさんご存じのとおりだ(参照:日本IBM ProVISION 2009 Winter 多様な人材の育成に対するIBMの取り組み)。
別の視点で考えてみよう。たとえば、あなたが日々使っているスマホのアンドロイド。あるいは毎日アクセスしているインターネット上にあるサーバー。これらのコンピュータを動かしているのは、「オープン&シェア」の産物である基本ソフト「Linux」だ。
かつて基本ソフトは、ソフトウエア会社が大量のヒト・モノ・カネを投入して開発するものだった。「ソースコード」と呼ばれる基本ソフトのプログラムは、門外不出の最高機密として厳重に管理されてきた。
しかしこの最高機密であるソースコードを全て誰でも見られるように公開したのがLinuxだ。
Linuxは、1991年にフィンランド・ヘルシンキ大学の学生だったリーナス・トーバルズが個人で始めたプロジェクトだ。誰でもソースコードを入手して修正できるし、誰でも開発プロジェクトに参加もできる。よいプログラムを書いて認められれば、Linux本体に組み込まれる。世界中の腕に覚えがあるプログラマー、ベンチャー、大企業が、まさに「オープン&シェア」の発想で一緒に開発し育てたLinuxは、今やマイクロソフトと並んで強大な存在感を放っている。
大量生産が「割に合う」時代の終わり
こうしたIBMやLinuxが体現してきた新しい価値感が、ついにコーヒー業界に流れ込んできた。その象徴が、ブルーボトルだとも言えるのだ。
もちろん、これまで世界中の大企業が「標準化と均質性の追求」「独占、クローズ」の価値観で経営されてきたのは、それが合理的だったからだ。
コーヒー業界も同じで、大量生産したコーヒーの安定供給が何よりも優先された。コーヒー豆の産地や品質より、取引所で一定価格で取引されること、つまり「質よりも量」が重要だったのだ。一方、個人や小さい会社が品質にこだわったコーヒー豆を調達しようとしても、情報のやり取りだけで大変で、割に合わなかった。
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