半導体工場を拡張する東芝の思惑 伸び盛りの市場を狙い撃ち

拡大
縮小

半導体事業の投資にも意欲的で、半導体とストレージ事業で年間2000億円規模の投資を行う計画。このうち「大半は四日市での投資」(田中社長)を見込んでいる。東芝全体の設備投資と企業への出資を含む投融資額の14年度の計画は、14年度4500億円なので、その半分を半導体事業に充てるというわけだ。

国内生産にこだわる理由

コスト競争力を求め多くの製造業が海外に工場を移す中、なぜ東芝のNAND型フラッシュメモリは国内生産にこだわるのか。大きく3つの理由がある。

1つは、研究開発と生産拠点を一緒にすることで、生産現場から上がってきた声をすぐに研究開発に活かせるメリット。双方の拠点を集約することで、最新技術を迅速に生産現場へ導入できるため、量産までの時間を短くすることが可能となる。

2つ目は事業特性。海外に工場を移すことのメリットとして人件費の安さがあげられるが、半導体前工程はクリーンルーム内の清浄な環境が必要となるため、生産ラインを全自動化しており、多くの人員を要しない。現在、四日市工場では約5300人の人が働いているが、設備の点検などが主な業務。このため、新棟2期分が竣工したが、新たな雇用は生まれていない。

シェアトップは目指していない

 3つ目は技術流出を防ぐためだ。東芝には、過去DRAMで生産拠点を増やし過ぎたとの反省がある。海外拠点が増えれば、たとえば自社工場の従業員がライバル社の工場に職を変えるなどのリスクもあり、情報流出の危険性も高まる。このため、NAND型フラッシュメモリの生産拠点の集約を徹底。ただ今年3月には、東芝の微細化に関わる情報が韓国のSKハイニックスへ情報流出する事態が起こっており、さらなる情報管理の強化が課題となっている。

NAND型フラッシュメモリ市場の成長が見込まれる中、着実に生産設備の拡大を図る東芝。もっとも、15年夏には建替え中の第2製造棟の一部が竣工し、3次元構造のNAND型フラッシュメモリの生産を始める計画ではあるが、「ナンバーワンになるとか、シェアトップになるといったことには、そんなにこだわっていない」と田中社長。足元NAND型市場は好調だが、半導体需要は浮き沈みも激しい。シェア拡大を追って供給量を拡大した結果、需要が低迷しては目も当てられない。当面は大胆かつ慎重な舵取りが求められる。

富田 頌子 東洋経済 記者

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とみた しょうこ / Shoko Tomita

銀行を経て2014年東洋経済新報社入社。電機・家電量販店業界の担当記者や『週刊東洋経済』編集部を経験した後、「東洋経済オンライン」編集部へ。

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