10年後に当たり前になる「もう1つの世界」の正体 拡張現実によって新しい世界が築かれる

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とはいえ、こうしたARの世界での勝者は、GAFAのどの会社でもないと思います。破壊的テクノロジーの歴史を振り返ってみれば、ある分野で支配的だった者が次の時代のプラットフォームとしてそのまま残ることはありませんでした。一時期、コンピューターを作っているIBMに対抗し、非常に多くの競合社が製品を出していました。でもどの会社も成功することなく、IBMに逆らっては金持ちになれない、と冗談めかして言われていました。

しかし、やがてそのIBMさえその地位から去ることになりました。コンピューター本体のハードウェアではなく、ソフトウェアの会社がその地位を奪ったのです。ウィンドウズを作ったマイクロソフトの勝利です。

これに対抗して、多くの人が自作のOSでマイクロソフトと競い合い、失敗しました。マイクロソフトにOSで対抗するのはやはり無理でした。そのマイクロソフトを押しのけたのは誰か? それは検索会社のグーグルです。彼らはOSを作ろうとしたのではなく、検索の会社を作ったのです。

多くの人がまた、検索の分野で必死にグーグルを押しのけようとしましたが、誰も成功しませんでした。そのグーグルを押しのけたのは誰か? ソーシャルメディア会社のフェイスブックです。そしてまた、何千もの会社がソーシャルメディアを作ってはフェイスブックに対抗していますが、彼らも勝てないでしょう。次に勝つのはARの会社でしょう。

聞いたことのない小さな会社が台頭する

そのため、IBM、マイクロソフト、グーグル、フェイスブックといった大会社がすべて、ARの世界で主導的地位に立ちたがっています。歴史を参照するなら、彼らのどれも勝者にはならないでしょう。彼らは自分の成功に囚われてしまっているのです。そこで成功するのはきっと、いままで聞いたこともない、ソーシャルメディアの外にいる小さな会社だと思います。

以前に書いた『ニューエコノミー勝者の条件』の中で私は、「勝者総取り」や「収穫逓増」の法則について述べました。新しいAIが生み出すミラーワールドという資本主義の世界でも、収穫逓増の法則がなくなるということはないでしょう。

それは(利用者が増えれば増えるほど利用者同士やその外部にとっても益になるとされる)「ネットワーク効果」と呼ばれるものの一種で、本来的にどんなネットワークにも当てはまります。この傾向を超える何かがあるとは考えづらいですね。

われわれが資本主義に対してできることは、それが持っている傾向を利用するか飼い慣らすかしかなく、除去することはできないと考えます。ミラーワールドにおいては、成功を収める小さな開発会社がたくさんできると思います。

もし将来、ARのミラーワールドの世界で大きく成功した会社があるとすると、こうした環境を支える何万もの小さな勝者が出てきます。「勝者総取り」の法則が環境を創出することで新しい標準が生まれ、それに準拠した何千万もの事業体が誕生するということです。

次ページすでに静かに動き出している「ミラーワールド」
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