10年後に当たり前になる「もう1つの世界」の正体 拡張現実によって新しい世界が築かれる

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昔は、理髪師になったら理髪師のままだし、肉屋も肉屋のままでした。しかし現在は、タクシーなどの運転手なら、ウーバーに転職できるでしょう。古い選択肢はそのままですが、自分の時間を過ごすために新しい仕事や選択肢もできてくる。それらが増えるということは、自分が一番興味を持てる仕事や得意な役割を選びやすくなり、おかげでもっと幸せになれるということです。選択肢が増えることで、より多くの人が自分に最適なものを見つけられるようになるんです。

どんな新しいテクノロジーも解決と同時に問題ももたらします。重要なのは、それをどうやって減らすかということです。私が提案したいのは、データをきちんと追跡することで、まずはテクノロジーをいつでも計測して評価するということです。

テクノロジーは1年ごとに評価し直す必要がある

FDA(アメリカ食品医薬品局)では新薬が発明されると、安全か効果的かをテストして許認可するのですが、その後はもうテストはしません。しかし人々は、こうした薬が市場に出ると、本来とは違う他の目的に使い始めます。薬はある目的のために作られ、それに関連してもっと有効な使われ方もしますが、こうした新しい使われ方に対するテストは行われないのです。FDAは一度テストしたらそれが未来永劫有効だと考えているのです。

同じことがテクノロジーでも起きています。新しい車を出すと、その後はそれをテストしたりそのよさを評価したりはしません。20年前に安全だと認定されたので、それをいまさらテストする必要はないと考えます。しかし私は1年ごとにテクノロジーを評価し直さなくてはならないし、すべてのテクノロジーに対していい面と悪い面を評価して信頼性を確保しなくてはならないと考えます。

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新しいテクノロジーはよく、欠陥があったり障害を生じたりするはずだからそれを罰するべきだと考えられますが、何に比較してそうなのかを決めるのが難しいのです。古いテクノロジーと比較するだけなら障害は生じます。しかし古いテクノロジーに関しても、きちんと計測して評価して記録を保持しなくてはならないのです。

それはデータを基に行うのがいいでしょう。人々は新しいテクノロジーは上手くいかないという前提で管理し、想像だけでそれをどう使うかを決めてしまうのです。私ならそのテクノロジーがこれまでのところどうだったか、と具体的なデータに基づいて評価します。想像上の未来をもとにした評価ではなく、証拠に基づいて評価すべきなのです。

つまり、ミラーワールドのテクノロジーに関しても、恐れる必要はないものの、監視し、関心を持つ必要があり、それを上手にやらなくてはなりません。恐怖に怯えると人は理性的に行動できなくなり、バカげたことをしてしまいます。ですから利口に、注意深く、意識を持って監視するのです。

(聞き手:大野 和基)

ケヴィン・ケリー 編集者、著述家

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Kevin Kelly

1993年に雑誌『WIRED』を共同で設立、創刊編集長を務める。これまでにスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾスなど、数多くの起業家を取材。現在は、『NYTimes』や『Science』などに寄稿するほか、編集長として毎月50万人のユニークビジターをもつウェブサイトCool Toolsを運営。主な著書に『テクニウム』(服部桂訳、みすず書房)、『〈インターネット〉の次に来るもの』(服部桂訳、NHK出版)など

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