日本企業が知らない「物流」究極のアマゾン対抗策 価格決定権を牛耳られる前にできることがある

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フィジカルインターネットは野心的な構想だが、いきなり全業界において物流網のオープン化やアセット情報の共有化などを始めるのはハードルがかなり高い。物流企業や大手商社や卸企業、大手小売りなどが、特定の業界を取りまとめながら、その中でフィジカルインターネット構想の中で掲げられているコンセプトの一部を実現していくほうがより現実的ではないだろうか。

ある業種で成功したプラットフォームのモデルが別の業種に広がっていく可能性も大きい。そして、各業界のプラットフォームが一定ルールの下で相互に乗り入れる流れができていけば(インターネットは、ネットワークが相互乗り入れをしたもの)、フィジカルインターネットという形に発展していくかもしれない。

アマゾンが始めるのは時間の問題

フィジカルインターネットというコンセプトとともに、今後の物流革新のキープレーヤーとして注目されているのがアマゾンだ。アマゾンは倉庫の自動化など最新技術を投入して自社の物流網を世界中に構築している。その物流網を他の企業にも解放して、物流分野を席巻するのではないかと恐れられているのだ。

『テクノロジー×プラットフォームで実現する 物流DX革命』(日経BP)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

おそらくアマゾンがそうしたビジネスを開始するのは確実で、時間の問題だろう。ECの世界で大成功を収めているが、物流を起点にサプライチェーン・マネジメントに関するサービスを企業に提供し、B2CだけでなくB2Bの商流も握ってしまおうという野望が見え隠れする。

確かに、荷主企業から見れば、アマゾンは最も信頼できる3PL(企業から物流機能の全体もしくは一部を受託して運営する)事業者になりうる。アマゾンのクラウドサービス(AWS)が一気に広がっていったように、物流サービスも普及していく可能性がある。

ただ、その先に何が待ち受けているかというと、競争にさらされる大手物流企業、中間物流を担う卸企業、商社などへの大打撃だ。ライバルが次々と消滅し、実質的な選択肢がアマゾンしかなくなったあと、多くの企業はアマゾンに価格決定権を握られてしまっていることに気づくだろう。

私としては、そうした状況が本格的に訪れる前に、日本初の業界別次世代プラットフォームを軌道に乗せて、世界にも広めていきたいと思っている。さまざまなビジネス分野で、世界における日本の地位低下が危惧されているが、実は、業界別に物流網を束ねていく発想は意外にも日本独自のものであり、欧米にはなかなかないものだ。

さらに、倉庫内の自動化やロボット技術に関して、日本は世界最先端を走っている。つまり、物流改革を起点とする業界別次世代プラットフォームのコンセプトとソリューションは世界に通用するものであり、日本企業の存在感を世界に示すことができる貴重な機会がまさに今到来していると確信している。

また、最新の物流システムを誇るアマゾンであっても、メーカー側のロットとアマゾン側のデマンドが合わず配送の遅延や在庫切れなどが起きていて、決して完璧な状態とは言えない。日本企業は、アマゾンなどの物流先進企業が抱える課題を把握・分析したうえで、バリューチェーン連携を強化していくことが非常に重要だ。

前回記事:日本企業が理解すべき「物流での競争が不毛」の訳
前々回記事:14万人不足の深刻「物流危機」克服する合理的秘策

北川 寛樹 アクセンチュア 製造・流通本部 マネジング・ディレクター

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きたがわ・ひろき / Hiroki Kitagawa

日系、外資コンサルティング会社を経て、アクセンチュア参画。香港・中国7年、インドネシア3年の海外経験を通じ、様々な日系企業の海外進出、新規事業開拓コンサルティングを実施。また、アクセンチュアでは、サプライチェーン・コンサルティングに集中し、大手商社、消費財、物流企業、自動車部品サプライヤーなど、様々な業界の新規事業、トランスフォーメーションに携わる。最近では、物流を起点としたサプライチェーン改革や次世代物流プラットフォームの形成に関して、複数の大手企業と取り組んでいる。(写真:本人提供)

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