老舗高級百貨店が店内にスケボー場を作ったワケ 今の時代「若者を惹きつける何か」が重要課題

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ただ広告を見せつけられたり、謎のポイントを発行されたりするのではなくて、自分たちの好きなカルチャー活動を企業がサポートしてくれるのであれば、ユーザーも嬉しいはずです。

面白い事例がもう1つあります。ロンドンにSelfridgesという、ハイブランドを多く取り扱っている老舗の百貨店があります。最近は、ハイブランドもストリートカルチャーのトレンドを取り入れたカジュアルなラインを出していることもあり、Selfridgesにとっても客層を若返らせて、なるべく「若いイケている子たち」に来店してもらうことが最重要課題になっています。

新スタイルのブランドを扱う百貨店として、「若者を惹きつける何か」が必要になってくると考えたSelfridgesは、思い切りのいいことに、百貨店のフロアの一角に、なんとスケートボード場をつくってしまったんですね。

日本だとあまり想像できないですけど、高級デパートの売り場にスケートボード場が併設されているわけです。

百貨店内なら女性も安心して使える

しかし、当初は批判もかなりあったようです。「大資本がストリートカルチャーを搾取しているのではないか」という声が上がったのです。「スケボーはマーケティングの手段ではない」という意見もあったそうです。

そこで、Selfridgesは「女性のスケートボーダーも安心して練習できる場所にする」という約束をスケートボーダーたちとすることで、計画の実施にこぎつけました。

確かに、女性のスケートボーダーも増えているなか、ストリートで練習していると怖い目に遭うリスクもありますよね。練習場が百貨店のなかであれば安全に練習できるので、結果的に「文化に貢献するのではないか」という視点で両者は折り合いをつけたのです。

これは、百貨店側の人とスケートボーダーの当事者との直接の対話によって実現できた、いい施策だと思います。

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これを、ただ乱暴に「若者の文化を取り入れてマーケティングしよう」という発想だけで強引に実施したとしても、うまくはいかなかったでしょう。ここは、本当に力関係が難しいところですが、ビジネス側の論理でカルチャーを「支配」したり、「買収」しているように見えたら、そのブランドは終わりです。大きな反発を受けます。

これからのブランドエンゲージメントを企むマーケターは、ビジネス視点だけでなく、自分たちが扱っているブランドが、どのようなカルチャーと接点を持っているのか、そして、そこに何が貢献できるかを考えることが必要になるでしょう。

企業やブランドは経済行為を超えて、いかに人々の「安心できる居場所」をつくれるかが、問われるように思います。

廣田 周作 ブランドリサーチャー

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ひろた しゅうさく / Shusaku Hirota

1980年生まれ。放送局でのディレクター、広告会社でのマーケティング、新規事業開発・ブランドコンサルティング業務を経て、2018年8月に、企業のブランド開発を専門に行うHenge Inc.を設立。英国ロンドンに拠点をもつイノベーション・リサーチ企業Stylus Media Groupのチーフ・コンサルタントと、Vogue Business(コンデナスト・インターナショナル)の日本市場におけるディレクターも兼任する。独自のブランド開発やリサーチの手法をもち、多くの企業のブランド戦略立案やイノベーション・プロジェクトに携わる。著書に『SHARED VISION』(宣伝会議)など。

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