波紋呼ぶ外交ボイコットと民主サミットの意味 問われる日本の対応<アメリカ政治の専門家2氏に聞く>

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【慶応義塾大学総合政策学部教授 中山俊宏】

バイデン政権が民主主義サミットを開催したことは、トランプ政権時代の「アメリカファースト」主義を否定する意味合いが強かった。アメリカファーストとは自国を最優先としながら、主権国家であればアメリカに害を及ぼさない限り、どんな体制であっても介入しないというものだった。

しかし、全世界的に民主主義が後退する一方、権威主義国が台頭し、その筆頭に中国、ロシアがいる。その両国とアメリカは長期にわたって「大国間競争」を繰り広げなければならない。そうした中で民主主義を再定義し、その正しさを確認・礼賛する象徴的な場としてサミットが企画された。

なかやま・としひろ●1990年青山学院大学卒業。2001年同大学大学院国際政治経済学研究科博士課程修了。ワシントン・ポスト紙記者、日本国際問題研究所主任研究員、アメリカ・米ブルッキングス研究所招聘客員研究員などを経て2006年津田塾大学准教授。2010年青山学院大学教授。2014年より現職。専門はアメリカ政治・外交(写真・本人提供)

ただ、大国間競争を視野に入れた場合、民主主義のくくりには入れられなくても自陣にいてほしい仲間もいる。そういう国を排除してしまったことの負の効果を考えると、「果たしてこのサミットは必要だったのか」という強い疑問が各国にあったのではないか。少なくとも、無条件に礼賛する国はそれほど多くはないだろう。アメリカ国内にも疑問を感じている人は多く、完全にホワイトハウス主導のイベントだと見られている。

北京五輪のボイコットについては、モスクワ五輪のように選手団まで対象にすべきだという考え方はアメリカ国内でも初めから少なかった。

だが、今の米中対立は単に力と力のぶつかり合いではなく、民主主義や人権といった体制や思想の面での対立が強くなっており、何もなかったかのように五輪に参加するという選択肢はなかった。アメリカ全体が中国に対してタフ(強硬)になっている背景も考えれば、今回の外交的ボイコットに驚きはない。これに英国などのアングロサクソン国を中心に何カ国かが同調している状況だ。

日本はどうすべきか。米ソ冷戦時代と違い、米中対立の中では日本自身がフロントライン(最前線)に立っている。そういう時に価値や民主主義の問題で日本の政権が口籠もってしまうことは、もはや許されないのではないか。国として譲れないところを示していく必要がある。仏独などが違ったアプローチをとるかを見極めようとしているのだろうが、次々と各国が態度を示す中で後れをとることはメッセージとしてよくない。

外交的ボイコットの問題を、中国だけの問題に矮小化させてはならない。人権など価値の領域でしっかり発言する国になるよう、日本全体が意識を高めることが大事だろう。

トランプ再選によるアメリカリスク

中国リスク以上に深刻なのが、アメリカ自身がおかしくなっていくことだ。国際情勢のうえでも最大のリスクといえる。2024年の大統領選で共和党のトランプ氏が出馬するかはわからないが、同氏周辺の動きを知っている人の10人中8~9人は「トランプ氏は再選を狙っている」と言い切る。仮に出馬すれば、2023年春ごろから活動を始める。勝つにせよ、負けるにせよ、アメリカの政治は「トランプショー」になるだろう。

一方、高齢のバイデン大統領が再選を狙うかは微妙で、ハリス氏も「史上最低人気の副大統領」といわれるなど、民主党側の不安定感が高まっている。トランプ再選も想像できないことではない。もしトランプ氏が勝てば、2020年に同氏が再選していた場合のインパクトよりも相当深刻だろう。

国際政治はアメリカの世界的レピュテーション(信用)がある程度安定しているという前提で動いている。もちろんバイデン政権にも不安はあるが、政権交代による「アメリカリスク」を日本としても念頭に置いておく必要がある。(談)

中村 稔 東洋経済 編集委員
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