波紋呼ぶ外交ボイコットと民主サミットの意味 問われる日本の対応<アメリカ政治の専門家2氏に聞く>

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【早稲田大学社会科学部教授 中林美恵子】

民主主義サミットの日程はずいぶん前から決まっていたが、北京五輪の外交的ボイコットを決めるに当たり、そのタイミングを重ねたのだと思う。

今回訪米して実感したのは、中国に対する脅威の度合いが非常に強いということだ。そうした発言が次から次に飛び出していた。かつては中国を甘く見ていたが、もうそういう状況ではないという切迫感がある。

すでに遅きに失したとはいえ、いま見過ごしていたら中国は完全に大手を振って国民の監視や言論の弾圧を進めるだけではなく、もっと強大な力になってしまう。ただ、もう一国では何ともできないので、民主主義の同盟国・友好国を中心に仲間を増やしたいというのがアメリカの考えだ。

中国は経済的にも軍事的にも旧ソ連の比ではない。だからこそ、「第2の冷戦」とは言わないでほしいとアメリカは考えている。中国とは、経済的な関係が深い以前に、もっと大変な戦いであるということだ。

バイデン大統領はいま国内で支持率低下に苦しんでいる。インフレの問題に加え、議会内で民主党が左派と中道派で割れていることが理由として大きい。党内のゴタゴタで重要な法案の可決も遅れている。中国に厳しくすれば支持率が上がるわけではないが、対中強硬論は超党派で一致しており、腰を据えてやらないと人気がさらに下がることになりかねない。

「日本の国の形」が問われる

外交的ボイコットは五輪のゲーム自体に影響はなく、象徴的な動きではある。中国も軽視しようとしている。

実質的な影響があるとすれば、どれくらいの国がアメリカについてくるか、アメリカがどれだけの民主主義国家を束ねられるかによる。米ソ冷戦では経済や理念を含めて二分されたが、(米中対立では)それができない中でどれだけの国が板挟みになるかが難しい問題となる。

なかばやし・みえこ●大阪大学大学院で博士号取得(国際公共政策)。1992年アメリカ・ワシントン州立大学大学院で修士号取得(政治学)。その後約10年間、アメリカ上院予算委員会の連邦公務員(共和党)として国家予算編成を担う。経済産業研究所研究員などを経て2009~12年衆議院議員。2013年早稲田大学准教授。2017年から現職。専門はアメリカ政治(写真・梅谷秀司)

日本では、アメリカのように与野党を超えてボイコットの声が大きくなっているわけではない。日米でかなり温度差はある。ただ外交的な意味では、そろそろ日本もどういう国家理念を持つのかを示さなければいけない。一方で、中国は東京五輪を早くから応援し、外交的トップではないが、五輪関係者を使節団として東京五輪に派遣している。日本として後ろ足で砂をかけるようなことはしづらいという事情はある。

アメリカでいろいろ話を聞くと、「日本は外交的ボイコットをしない」という方向で、すでに日米政府で話し合いがされているという感じだった。アメリカも無理にこうしろとは言わないし、日本も経済を含めた国益を考えればそれはできないと。

ただ、外交筋の間で大問題にはならないとしても、議会の人たちの間ではそれでは通用しない。今回の件は、「日本の国の形」を国際社会に示すことになり、アメリカ議会が日本を見定める指標にもなる。日本の世論がもっと厳しくなれば政治も動くと思うが、財界を含めた世論はそれほどではなく、それが今の日本の国の形になっている。

外交的ボイコットの問題はシンボリックだとはいえ、人権に対する覚悟について日本にしっかりとした“背骨”があるかを示すチャンスでもある。その態度いかんで日本の国際社会におけるイメージがだんだんと固まっていく可能性がある。(談)

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