三宅:すごいですね。ところで、やりたいことを実現するためには利益も必要ですが、それをきちんと出していらっしゃるわけですね。
亀田:当院は昔からカネが儲かったことがないと職員全員に言われています(笑)。正確には、余剰資金があれば再投資に回してきたということですね。だからキャッシュはないですね。だいたい病院というのは、儲けることでみんなから喜ばれる仕事じゃないんですよ。
三宅:でもちゃんと再配分していますよね。
亀田:再配分というより再投資ですね。そして何のための再投資かというと、医療のクオリティを上げるためです。それが競争力につながっていくというだけです。「あの病院は大黒字だから行こう」という人はいないでしょう? それよりいい医者を集めたり、働く人たちのモチベーションを上げる仕組みを作らなければいけない。だけれども金銭的なインセンティブが絶対的なものなのかというと、そうとも限らない。医師など医療介護のプロフェッショナルには、カネだけを求める人間もいないわけではないけれど、やりがいとか、自分の価値を評価してくれるとか、世の中の役に立つとか、そういうところに価値を置く人がたくさんいるわけです。そういうプロフェッショナルがちゃんと満足を得られるようなプラットフォームを作っていくのが、われわれの役目です。
三宅:そうすると病院の価値も上がるし、いろんな人たちも来てくれると。
亀田:ちなみに、今の日本の国は「うっ血性心不全」ですよ。
三宅:(笑)なるほど。
雇用の流動化を進める町づくり
亀田:町づくりでは「共生社会」というのをひとつのスローガンにして、いろいろやっています。都会と田舎の共生とか、高齢者と若者の共生とか、健常者と障害者の共生ということですね。
東京の富裕高齢者にターゲットを当てて、その人たちにサービスするものだけをどんどん作っていってもいいけれど、すると「亀田は金持ちばかり相手にする」という話になる。医療機関というのはあくまでもインフラであり、地域密着産業なんですよ。だから町づくりを進めていく前提は、まず地元住民に理解をしてもらうことです。今、地元住民に対してのセーフティネットを作ろうとしています。たとえば前回も言いましたが、無料低額診療。これはおカネのない人から診療代をとらないというもので、全部病院が被ります。その代わり申請すれば病院側は固定資産税などが免税されるという仕組みです。
それから新しく安房地域医療センターに看護の専門学校を作りました。というのも、絶対的に看護師の数が足りない。これが日本の大きな問題です。特に千葉県は2025年には1万5000人の看護師が足りなくなると千葉大が試算しています。これを確保するのは無理ですが、それでも看護師になりたいと思っている人を、可能なかぎりすべて看護師にまで育てるというのが、これから非常に大事なことです。
それから必ず医者も足りなくなります。そうすると看護師の裁量権が拡大されて、看護師というひとつのベースとなる資格の中で、レベル分けがされていきます。だからこそ看護師が向上心を持って努力すれば、どこまででも上に行けるようにしたいと思っています。
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