山形「ワーケーション新幹線」が秘める大胆戦略 2022年3月引退の「とれいゆつばさ」使い運転

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とれいゆつばさの運行開始は2014年7月だが、ベースとなった車両のE3系はその10年以上前の2002年10月から秋田新幹線「こまち」として運行していた。来年で製造から20年経つことになり、車両の老朽化はまぬがれない。山形新幹線E3系は2024年から新型のE8系に順次置き換えられることが決まっており、そうなると交換部品の手当も難しい。

同じくE3系をベースに開発された観光列車「現美新幹線」が一足早い2020年12月に運行終了したことを考えると、やむをえない判断といえる。だが、県にとっては、とれいゆつばさを使ったワーケーション新幹線の第2弾は実現が難しくなる。遠藤主幹は「まず参加者から寄せられたアンケートの回答を集約して今回の企画を評価してから、今後について考えたい」と話す。

出張客増えればトンネル計画の後押しに

とはいえ、たとえ最初で最後であっても、とれいゆつばさによるワーケーション新幹線の運行は大きな意義がある。JR東日本は東北、上越など主要な新幹線に「新幹線オフィス車両」を設置して車内で仕事をする人に便宜を図っているが、山形新幹線はその対象から外れている。1編成が7両しかないためオフィス車両を設置するだけの余裕がないからだが、もし、今回の取り組みでニーズがあると判断されれば、2022年春に予定されている全車指定席化、あるいはE8系導入などのタイミングで設置される可能性はある。

山形駅ホームでは関係者らが「やまがたワーケーション新幹線」の到着を出迎えた(記者撮影)

新幹線の移動時間をビジネスに使えることで出張客の利用が増えれば、県が構想する山形新幹線・福島―米沢間のトンネル整備計画への大きな援軍となる。工期が15年、事業費も1500億円のビッグプロジェクトだが、完成すれば所要時間が短縮されるだけでなく、現在の山形新幹線を悩ませている雪や風による運休や遅延も解消される。トンネル整備は地域経済活性化に大きく貢献するという考えから、県は9月補正予算に調査費2200万円を計上した。

山形県の人口は2021年11月時点で105万人だが、県の予測によれば2045年には77万人に減る。県みらい企画創造部の小林剛也部長は「せっかくトンネルを造っても、完成する頃には人口が30万人近くも減っている。トンネルが完成してから地域経済活性化を考えるのは遅すぎる」と話す。そのために今のうちから打てる手は打っておきたい。

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