山形「ワーケーション新幹線」が秘める大胆戦略 2022年3月引退の「とれいゆつばさ」使い運転

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車中ではストリートミュージシャンによるピアノ演奏なども行われ、参加者を退屈させまいという県の姿勢が感じられた。昼食として配られた米沢名物「牛肉どまん中弁当」の限定バージョンを食べ終わる頃には列車は福島駅を離れ、奥羽本線へ。車窓を流れる速度も一気にスローダウンし、晩秋の東北の山々が視界に飛び込んできた。

あらためて各車両の様子を見て歩くと、先ほどとは打って変わって、仕事をしている人が大幅に減っていた。車窓の景色を眺めたり、周囲の人と談笑したり、参加者たちは思い思いに旅を楽しんでいる。通路の向こう側の人と名刺交換をしている人もいた。

「普段乗っている新幹線と違って、偶然隣り合わせた人と会話がはずむのが面白い」と、東京のIT関連企業に勤める男性が話してくれた。これも観光列車という非日常感がなせる技だが、ワーケーション新幹線なら、この偶然の出会いが今後のビジネスにつながるということだってありえる。

米沢から先は新幹線が停車する各駅に止まり、少しずつ客を降ろしていった。列車は山形駅に13時50分に到着。ここで大半の参加者が下車し、残る客を乗せて列車は新庄に向かった。

今後の展開に大きな問題が…

県内の各駅で下車した参加者は観光を楽しんだり、県内各地に設けられたリモートワーク対応施設で仕事をしたりする。そして沿線の宿泊施設で1泊して翌日の新幹線で東京に戻るという行程だ。日帰りの人もいる。

山形駅直結のビルにある「スタートアップステーション」のコワーキングスペース(記者撮影)

山形駅で降りた参加者は、県が企業振興公社と組んで11月18日に開設した「スタートアップステーション・ジョージ山形」を見学した。最大50席の複合型コワーキングスペースを備え、1日500円、月額3000円という利用料金は首都圏と比べれば破格の安さだ。山形駅に直結したビル内にあり、県外から訪れたビジネスパーソンがビジネスを行うには最適の環境だ。

「無事に終わってほっとしました」と、ワーケーション新幹線を企画した県総合交通政策課の遠藤和之主幹はほっと胸をなでおろしたが、実は大きな問題がある。JR東日本が10月19日、「とれいゆつばさは2022年3月で運行を終了する」と発表したのだ。

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