それからレンチン調理では往々にして、食材の「くさみ」が抜けません。
「ブリ大根」もそのほかの煮魚もそうですが、鍋で煮るときは、外側から徐々に熱が伝わって、調味料がしみ込むのと同時に、魚のくさみがゆっくり抜けていくのです。
ところがレンチン調理では、あっという間に加熱させるため、くさみの抜ける時間がないのです。
「食品のくさみ」というのは、意外と大きな問題です。私が昔、加工食品の開発をしていたとき、真空パックの調理済み食品を作ろうとしたことがあります。
魚や煮物などを真空パックにして、その状態で加熱すると、調理と加熱殺菌がいっぺんにできるのです。これだと常温で2カ月ぐらいもちます。食べるときはレンジで温めるのです。
35年も前の話で、当時は真空パック調理など誰もやっていませんでした。これは一大ヒットとなるだろうと有頂天になったのですが、フタを開けてみたら大コケ。まったく売れなかったのです。
理由はシンプルにおいしくないから。この方法でやると、どうしてもパック内に「嫌らしい味」がこもってしまうのです。真空パックにすると不思議なことに、魚の嫌なくさみ、野菜の苦みが気になったのです。
今回、レンチンで「ブリ大根」を作ってみて、あのときの「くさみ」を思い出しました。
当然ながら、レンチン調理というのは、材料と調味料を入れて、10分なら10分、15分なら15分間、電子レンジにおまかせです。
慣れの問題もあるかもしれませんが、私にとってこれはなかなかに不安でした。「ブラックボックス」ではありませんが、「調理の過程」がまるで見えないのです。
鍋で煮た場合、煮え方を目で確認したり、味見をしたりできます。そこで「煮崩れしそうだから火を弱めよう」とか「味がちょっと薄いからしょうゆを足そう」というように修正もできるわけです。レンチン調理はそれができません。出来上がるまで様子がわからないのです。
そして初めてわかったのですが、調理の過程が見えないというのは「楽しくない」のです。
鍋でグツグツ煮こんで、フタをちょっと開けてみると、おいしそうな香りが立って「おっ、もう少しかな」「そろそろできたかな」という、あのワクワクした感じが、「レンチン調理」にはまったくないのです。もちろん、料理にそんな楽しさなど求めないというなら問題はないでしょうが……。
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