煉獄さんにやたらと魅力を感じてしまう納得の訳 キャラクターの魅力を決定づける要素とは何か

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再び『鬼滅の刃〜無限列車編』の煉獄さんの例に戻りましょう。ここから先は詳しいネタバレを含むので、本編をこれから新たに見る予定のある人はどうか読み進めないようにお願いいたします。

これまでに見てきたように、煉獄さんの魅力は、能力の高さを象徴する外的要素、あるいは共感できる内的要素に現れています。

あわせて果たした役割も大きかったです。援助者として、これ以上なく存分に炭治郎達を守り、導きました。

猗窩座との戦いのなかで放った「俺は俺の責務を全うする! ここにいる者は誰も死なせない!」という言葉にぐっときた人は多いはずです。その言葉通り、最後まで責務を全うし、誰も死なせなかった姿は、見事に期待に応えたと言えます。その生き様を通じて、援助者として炭治郎達に大切なものを遺しました。

要素に優れていただけでなく、その役割を見事に果たしたからこそ、あそこまで共感されたのでしょう。

また役割を果たしたという点で補足するならば、煉獄さんは役割をたくさん持っていたレアなキャラクターです。まず援助者から犠牲者にスライドしたことが挙げられます。煉獄さんが援助者としての役割を果たせば果たすほど、犠牲者としての悲しみも大きくなりました。

そして、煉獄さんは援助者だけでなく、実際に危険をおかして目的達成に向けて行動を共にする協力者でもありました。さらに言えばストーリーの後半では主体とも言える役割を果たしており、最後は犠牲者として散っていきます。まさに一人で何役もこなす大活躍ですが、その全ての役割をこれでもかというくらいに全うしたことが、その魅力を高めた最大の要因と言えるでしょう。

しかし、それだけではないのです。

内的CQへの共感がキャラクターの魅力も高める

煉獄さんの内面的な魅力を語る上で、父親と母親、そして弟とのエピソードは外すことができません。実は父親との確執を抱え悩んでいた事実は、煉獄さんの知られざる一面を映し、多くの人の共感を誘いました。母親からの「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です」という教えを何より大切にしていたこと。それを最後まで貫き通した姿に、観客は涙しました。

結果的に闘いには敗れてしまいましたが、勝ち負けではなく、要素や役割を超えた「信念」のようなものに、我々は最も感動したのです。

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それはまさに内的CQと呼べるもので、そこに私達は共感し感動しました。煉獄さんのCQは母から受け継いだ「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務」という教えを守り、その責務を果たすことですが、その根っこにあったのは「両親に認められたい」という切実な思いです。「両親に認められたい」という内的CQ自体は、特別なものではありません。

日本を最も感動させたのキャラクター・煉獄杏寿郎の魂とも言える内的CQは「両親に認められたい」というごく普通のものだったのです。

しかし、だからこそ多くの観客に届いたのでしょう。根っこの思いは特別なものである必要はありません。その内的CQに対して、どれほどに真摯に向き合っているかが、キャラクターの魅力においては何より重要なのです。

前回記事:人が感動する物語をつくる2つの大きなポイント(11月27日配信)

たちばな やすひと プロデューサー

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Yasuhito Tachibana

1975年愛知県生まれ。東京大学理学部卒。有線ブロードネットワークス(現、USEN)、TBSグループの制作プロダクションであるドリマックス・テレビジョン(TBSスパークルに吸収合併)を経て2018年独立。プロデュースしたドラマは、『全裸監督』(Netflix)、『オー・マイ・ジャンプ!~少年ジャンプが地球を救う~』(テレビ東京)、『マリオ~AIのゆくえ~』(NHK BS)など。

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