しかしながら、この前提で投資をするということになれば、民業圧迫であるという批判が出てきてもおかしくありません。それについて、太田社長は次のように言います。
「官民ファンドということになると、民間でやればいいじゃないかという話は必ず出てきます。じゃあ、民間ファンドが小さなコンテンツビジネスとか、地方のモノづくりとかの海外進出案件に、投資ができますか? 民間ができないから、官民で一緒になってやるというファンドなのです。それ以外にも、そもそも官がやることがクールじゃない、という批判もあります。官が事業をやるなら確かにクールじゃない。でも、私たちがやるのは民間にあるクールなモノに投資をしてお手伝いすることです」
クールジャパン機構のクールで熱い気持ち
また、クールジャパン機構は、長期投資だけでなく、投資先の経営や事業にもコミットする、いわゆるハンズオンでの支援も前提としており、機構から人材を派遣しています。2013年の発足から徐々に人材も集まってきており、その多くは民間のファンドからの転職です。
「民間ファンドから転職してくるって、もの好きですよね(笑)。給与が3分の1になってもいいですか?と聞いても、それでも来ると言う。おカネは稼いできたけれど、今後は国のために仕事をしたいとか、子どもに背中を堂々と見せられる仕事をしたいとか、そういう粋な人たちです。彼らは海外で仕事をしてきて、日本のプロダクトのプレゼンスが低いことに、悔しい思いをしてきた人たちですよ」
太田さんは「日の丸が世界で立つのか? それを立てようとしている人は情熱があるのか?」という問いを、「ビジネスがうまくいくかどうか」以前の投資基準として、機構内外で繰り返しています。それは裏を返すと、もともと厳しいリターンが求められる世界で生き抜いてきた民間ファンド出身者に対して、クールジャパンファンドの存在価値の違いを明確にするためかもしれません。
漫画やアニメなどのコンテンツビジネス、日本食をはじめとした飲食、ファッションを中心とするライフスタイルなど、投資対象が多岐にわたるうえに、実際にそれらのモノ・サービス・コンテンツのグローバル展開を進められる人材となると、かなり高いレベルの知識と経験が求められるでしょう。
最近では少しずつ見られるようになったとはいえ、金融とリアルビジネスの人材交流があまり進んでいない日本では、この中間領域は人材がそうとう不足しています。そして、この人材不足こそ、現状まで「クールジャパン」コンテンツにおけるグローバルなビジネス展開が広がっていない要因でもあります。
その点では、クールジャパン機構から各投資先に送られた人材がどれだけ活躍できるのかが、このクールジャパン機構の成功のカギを握っていると言えます。
「クールジャパン機構では、実際に陣頭指揮をして、現場で活力ある仕事ができる人材を育てることも進めていきます。民間ファンドから来た投資経験を持っている人だけでなく、それぞれの分野の現場で結果を残してきた人も、ファンドの中で育てて、投資先に送っていきたい。ちゃんと現場で結果を残せるプレイングマネジャーを送れる組織にならないといけないのです。そもそもそういう意味がなかったら、私のようなファッション企業の出身者を機構の経営者にしないでしょうね(笑)」
機構の設置期間はおおむね20年と、ある程度の時間的猶予も確保されていることを考えると、もともと不足している「グローバル人材」を育てていくことも、この機構に求められている社会的意義だと言えるかもしれません。
次週、本当に「クールジャパン」プロダクトが世界のマーケットで勝負できるのかどうか、またそのために必要なことは何かを考えていきます。
※後編を9月18日(木)に公開します。
マザーハウスでは本連載のテーマである「モノにあふれた時代のモノ買い方、売り方」に合わせて、マザーハウスカレッジという、みなさんで議論する場を設けています。次回は9月24日(水)に「世界最大のコンセプトブランドが提案するお客様とのコミュニケーション」というテーマで、良品計画のWEB事業部長、奥谷孝司氏をお呼びして開催します。詳しくはこちらをご覧ください。
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