オミクロン株には「追加接種」がはたして正解か 追加接種に前のめりな先進国と途上国の攻防

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もっとも、追加接種に同調する科学者が増えると、ただでさえ足りていない途上国向けのワクチン供給がさらに細りかねない。世界保健機関(WHO)はオミクロン株が出現する何カ月も前から、追加接種を求める先進国によって貧困国が切望する1回目のワクチンが奪い取られていると指摘し続けている。

オミクロン株はハイリスクな「懸念される変異株」に指定されたが、追加接種に対するWHOの立場は変わってない。

WHOで緊急対応を統括するマイク・ライアン氏は12月1日の記者会見で次のように述べた。「現時点では、全人口に追加接種を行うことで、重症化リスクが高くない人の入院や死亡に対する予防効果の確実な向上を示唆するエビデンスは、私の知る限り存在しない」。

ライアン氏をはじめとする科学者は、アフリカなど人口の大部分が未接種となっている地域で感染に歯止めがかかっていないことが、オミクロン株のような変異株の誕生につながっている可能性が高いとしている。

追加接種については、専門家の間にも異論があるということだ。

誤解だらけの追加接種

フィラデルフィア小児病院のワクチン教育センター長でアメリカ食品医薬品局(FDA)の顧問も務めるポール・オフィット氏は、追加接種は抗体が免疫の中心にあるという誤った見方に基づいて推進されており、重症化や死亡を防ぐ免疫系の別の重要な役割が見落とされていると指摘する。「軽度の症状の予防が目的となれば、私たちは死ぬまで追加接種を繰り返すことになる」。

オフィット氏は、オミクロン株に対するワクチンの効果が下がっていたとしても、現行ワクチンの追加接種は最善の解決策とはならない可能性があると話す。「追加接種はこのパンデミックを乗り越える本来の道筋からそれているとしか思えない。本当に進めるべきは、未接種者への接種だ」。

しかし、状況は切迫している。

実験室での検証によりオミクロン株がワクチンを回避することが確認された場合、ワクチンメーカーはワクチンの対応を進める準備ができているとしている。ただ、新しいワクチンの開発には少なくとも数カ月かかるとみられるため、それまでの間は現行ワクチンの追加接種によってオミクロン株に歯止めをかける必要があるかもしれない。

追加接種で活性化した抗体が従来の変異株ほどオミクロン株に効かなかったとしても、抗体価が増加すればそれだけでワクチンの効き目の低下を補える可能性があるとガウンダー氏は話している。

(執筆:Apoorva Mandavilli記者)
(C)2021 The New York Times Company

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