世界規模で直面する「人口減少」の静かなる脅威 人類が「レッドリスト」入りすることになるのか

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少子高齢化による人口減少というのは、隕石によって恐竜が死滅したのとは異なる。

われわれは突如として人類絶滅の日を迎えるわけではない。ある意味、こちらのほうが過酷かもしれないが、絶滅に至るまでの間も少子高齢化は各国の経済を停滞させ、社会機能を麻痺させていく。「老いゆく惑星」の未来は、過去からの延長線上にはないのである。私はこうした事態を「静かなる有事」と名付けて警鐘を鳴らしてきた。

先にも述べたように、「見せかけの人口増加」は人口減少の危機に対する各国の国民の目を曇らせ、社会全体としての危機感が醸成されにくい状況をつくる。そうしている間にも、年々の少子化で女児の数が減っていく。そうなると、「未来の母親」となる若い女性人口が激減過程に入ってしまい、出生数の下落を止められなくなる。これから多くの国が、日本と同じ運命をたどるだろう。

繰り返すが、人口がひとたび減り始めると流れを止めることは難しい。それどころか、減少スピードを加速させていくこととなる。われわれは、人類が〝レッドリスト〞の仲間入りをすることになるかどうかの瀬戸際にあることに気付くべきなのである。

10億人単位の急加速

先述したように、20世紀は人類史に刻まれる「人口爆発の世紀」であった。その激増ぶりはどういうものであったのか。また、いつの間に減少局面へと転じたのか。20世紀を振り返ると痕跡が見つかる。まずは、時計の針を19世紀に巻き戻してみよう。

(画像:世界100年カレンダー)

国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の「人口統計資料集」(2021年版)が国連データを紹介しているが、世界人口が10億人に達したのは1800年代はじめである。この頃の年平均の人口増加率は0.4%であった。年平均の人口増加率は、紀元前から20世紀前半(1945〜1950年は0.8%)までずっと0%台で推移してきており、途方もなく長い時間をかけて人類はその数を徐々に増やし、19世紀に10億人に達したということである。

ところが、10億人から20億人に達する道のりはまったく違った。わずか130年足らずしかかからなかったのである。具体的には1927年とされる。

突如として人口が急増し始めたのは、農業の生産性が向上し、医療の普及や衛生環境が改善したためだ。先進国では工業へと産業構造が転換していくにつれて人々の暮らしが急速に豊かになり、乳児をはじめとして亡くなる人が減った。一方、開発途上国においては、子ども数の増加は労働力の増加であり、農業収穫量の増大を意味した。

『世界100年カレンダー』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

国連の「世界人口推計」によれば、20億人からさらに10億人増えて30億人となったのは、その30年後の1960年である。40億人となるのには、もっと短く14年しかかかっていない。1974年のことだ。

50億人突破はその13年後の1987年、60億人突破は50億人突破から同じく12年後の1999年である。

年平均の人口増加率を見ても、第2次世界大戦後に急加速し始めたことがわかる。先に紹介した通り、「1945〜1950年」は0.8%だったが、「1950〜1955年」に1.78%となるとその後は伸び続け、「1965〜1970年」には2.05%に上昇した。これは、1800年代前半の5倍の水準である。これらは、20世紀の「人口爆発」がいかにすさまじいものであったのかを明確に示しているのだ。

河合 雅司 作家、ジャーナリスト

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かわい まさし / Masashi Kawai

1963年名古屋市生まれ。中央大学卒業後、産経新聞社入社。同社論説委員などを歴任後、一般社団法人人口減少対策総合研究所理事長。高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員、厚労省ほか政府の有識者会議委員も務める。「ファイザー医学記事賞」大賞ほか受賞多数。主な著書に『未来の年表』(講談社現代新書)、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)、『コロナ後を生きる逆転戦略』『世界100年カレンダー』。2021年6月に『未来のドリル』(講談社現代新書)を刊行。

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