世界規模で直面する「人口減少」の静かなる脅威 人類が「レッドリスト」入りすることになるのか

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第1次オイルショックから半世紀を経て、さまざまな代替エネルギーが登場した。もはや石油の枯渇危機は叫ばれなくなったが、いまだに「開発途上国が、先進国並みの生活をするようになったら、食料も資源も不足して争奪戦が起きる」といった言説はなくならない。

事実、乱獲によって漁業資源が乏しくなるといったことは起こっている。その背景にあるのは、豊かになった人々の増加だ。人々が際限なく消費を拡大していったなら、確実にさまざまな天然資源が枯渇するだろう。

人口増加は自然環境の破壊にも直結する。人口が増えれば資源の獲得競争は激しさを増す。その分、使用するエネルギー量も増え、地球温暖化は加速した。一方で、都市開発や良質な住宅を確保するために密林地帯など未開の土地の造成が進み、緑地面積は減った。温暖化によって永久凍土が溶けたところに、性懲りもなくさらなる開発の手が伸びていく。

近年、新規感染症が広まるペースが速くなってきているのもこうした乱開発と無関係ではない。密林などに住む動物を宿主としていたウイルスに人類が接触する機会が増えたためだ。COVID-19に続く新たな感染症の発生が懸念される。

いまだに世界人口は増え続けている。人々が豊かな暮らしを手にしたいと思う気持ちは抑えようがない。果たして、この先、人類はどうなっていくのだろうか。考え始めたら不安は尽きないだろう。

世界人口が減少に転じるのは時間の問題

だが、各国のデータを調べてみると、すでに地球規模で少子化が進み始めている。あまり知られていないが、1950年以降、世界全体の合計特殊出生率は急落している。「2015〜2020年」は2.47だが、21世紀中に「2」台を割り込む見通しだ。世界人口が減少に転じるのは、もはや時間の問題なのである。

資源不足にしても、地球温暖化の進行にしても、人口の急増が大きな要因となっているわけだから、その前提が変わればいずれは落ち着きを取り戻し解決に向かうこととなる。タイムラグはあるが、いつの日か人類の悩みは人口爆発がもたらす弊害から、人口減少がもたらす課題へと大きく転換するということだ。

人口が増加から減少へと転じるのは、言うまでもなく少子高齢化が進むからである。人口減少後の世界がどうなっているのかは、「課題先進国」と呼ばれ、少子高齢化が最も進んでいる日本が道標の役割を果たすこととなるかもしれない。

世界人口の減少の動きは、一律ではない。最初に変化が表れるのは少子化である。続いて平均寿命が延びていく。これが高齢者人口を増やす理由だ。出生数が減り、高齢者が増えるのだから、必然的に勤労世代の割合は減ることとなる。労働者というのは国際間移動をするため、勤労世代の減少はなおさら認識されづらい。

このように、人口の変化は複雑に進行するが、中でも厄介なのは平均寿命の延びであろう。出生数の減少を覆い隠し「見せかけの人口増加」をもたらすためだ。人口減少がヒタヒタと迫りきていても多くの人は気づかず、状況が放置される。現在の世界人口は、ちょうどこの段階にある。

平均寿命の延びに限界が来た段階で人口が減り始めるが、そうした状況を多くの人が認識する段階に至ったときには、もはや講ずる策はなくなっている。これは日本が証明していることだが、人類はひたすら絶滅の道を歩んでいくこととなる。

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