ビートルズの「3人目」決定までのもどかしい経緯 『ジョン・レノン 最後の3日間』Chapter4
ポールはこのころリバプール・インスティチュート・ハイスクール・フォー・ボーイズに通っていたが、まともに出席するのは月曜日だけで、それ以外の曜日は授業をサボってジョンと2人で緑色の2階建てバスの86番線に乗り込んだ。
座るのは決まって、タバコの吸える2階席だった。
ジョンは、この古びたバスが好きだった。
綿のカバーの下にスプリングのごつごつとした感触を感じる座席や、ほっとするような暖かい空気。すっきり片付いた叔母のミミの家よりも、母ジュリアの家の雰囲気に近かった。
ジョンは座席に腰を落ち着けて、ポケットから眼鏡を取り出した。ポールがその様子をじっと見つめる。
「僕が眼鏡をかけているところ、見たことないだろ。めったにかけないからね」
ジョンの視力が悪化し始めたころ、ミミは彼を眼科に連れていった。
その結果、極度の近眼であることがわかって分厚い眼鏡をかけるようになったのだが、一度幼稚園で友だちにからかわれて以来、人前では絶対に眼鏡をかけなくなってしまったのだ。
でも、ポールの前では気にならなかった。ジョンにとって、ポールはすでに弟のような存在だったのだ。それも、恐ろしく才能があり、野心にあふれ、固い意志を持つ弟だ。
作曲に興味を持ち始めたジョン
2人はコード進行を繰り返したどった。
次第に、ジョンがどうにかギターでイントロを弾きこなせるようになった。
成功を祝うために、ポールが紅茶缶からくすねてきたタバコの葉を父親の予備のパイプに詰めて、火をつけた。ジョンは一口、煙を吸い込んで考えた。
「バディ・ホリーの曲は、ほとんど全部3つのコードだけで書かれてる。僕たちも、曲を書いてみるべきだ」
ポールが最初に作詞作曲のテクニックについて話をしてきたときには耳を貸さなかったジョンだが、いまや興味津々で話を聞き出しにかかった。