武田真治がつまずいたからこそ掴めた潔い生き方 「順序良い人生より、チグハグな人のほうが面白い」

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前編「武田真治は孤独な日々を言葉と筋トレで支えた」(12月8日配信)で書いたとおり、武田は最初のブレイク後に地獄を見た。著書には「人が成功までに経験する苦労を、僕は20代前半に小さな成功を得た後にしました」とある。その頃の心の支えは『スター・ウォーズ』だったそうだ。武田の世代にとっては説明不要のSFシリーズだが、同作はエピソード1から順に制作されていない。4→5→6、1→2→3、7→8→9の順だ。内容的にいちばんキャッチーな部分から作り、注目とお金を集めた。順序にこだわらず「やれること・やるべきこと」から始めて成功を収めた点に、武田は大きな意味を見出す。

「成長の順序は人それぞれ。僕は20代後半でつまずいちゃったことにすごく絶望したんですが、ある時、気がつきました。僕にはたまたまこの順番で絶望のエピソードが来ただけだって。中学生くらいでいじめにあったり、思春期に家庭内の問題で絶望を味わっているケースだって世の中にはたくさんあるでしょう。これが僕の成長の順番なんだと考えたら、まだまだのんきに進んでいこうと思えたんです。それに、順序良く人生経験を積んできた人より、なんだかチグハグな人のほうが面白いじゃないですか」

「横並び」で自分を見失わない

(撮影:塚本 弦汰)

ビジネスの世界では「キャリアプラン」という言葉がよく言われる。言わば順序良く計画的な職歴の形成。5年後のキャリアや10年後の年収を設定せよ。ただ、達成できればいいが、できなくて自己肯定感を下げる人も少なくない。

「それこそ『スター・ウォーズ』と同じで、できることからやっていったらいい。そもそも、よくできたか、よくできてないかなんて、他人が決めたランキングとの比較でしょ? そのチャートは正しいの? ほんとにちゃんと調べたの?って思います。歌番組のチャートに入ってなくたって、いい音楽はいくらでもある。チャートに入っていない音楽が心の支えになることだってありますよね」

武田は「『横並び』で自分を見失わないのも実力だ」と言う。その心は。

「他の人がどうとか、これくらいの年齢の人の一般的な平均はどうとか。ついつい横並びの情報に踊らされたり、一喜一憂させられたりするのだけれど、それって自分が生きていくうえでは関係ない。もちろん、すべての情報をシャットアウトすることがいいことだとは思いませんよ。でも、もっとのんきな気持ちでいることも大事かもしれないなって」

『上には上がいる。中には自分しかいない。』(幻冬舎)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

インターネットからの情報は、人々に「もっと上」をつねに提示する。今の自分がダメ出しされている気にさせられる。

「向上心を持つことと高望みすることって、ごっちゃになりがちですよね」

武田は言った。

「ビジネスをバリバリやっていて、今までつまずいたことのない方や行き詰まったことのない方には、どうでもいい内容かもしれないんですけれど、なにかうまくいっていないと感じている方には、この本を読んでいただいて、ちょっとでも心を休めることができたらと願います。不器用な人が器用に振る舞えるようになることが人生のただ一つの成功ではないんです。だからどうですか、僕と一緒に、不器用なまま生きていきませんか?」

前編:武田真治は孤独な日々を言葉と筋トレで支えた(12月8日配信)

稲田 豊史 編集者・ライター

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いなだ とよし / Toyoshi Inada

1974年、愛知県生まれ。ライター、コラムニスト、編集者。横浜国立大学経済学部卒業後、映画配給会社のギャガ・コミュニケーションズ(現ギャガ)に入社。その後、キネマ旬報社でDVD業界誌の編集長、書籍編集者を経て、2013年に独立。著書に『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)などがある。

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