喪主なのにずっと笑顔、女性と4歳娘の悲しい理由 「いい子、いい子」してほしかった、彼女の想い

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胸の上で組んでいた左腕の関節をマッサージし、ご主人の手をゆっくり伸ばすと、奥様が自分の頭をご主人の手のひらの下に潜り込ませます。下を向いたまま奥様は、ようやく小さな声を出して泣くことができました。

そして何度も、「私、頑張ったよね」とご主人に語りかけます。今、私の隣にいる小さな背中の女性は、今まで子どもを不安にさせないように、無理に明るく振る舞い頑張ってきたのです。

「主人はいつもこうやって頭を撫でてくれたの」

顔をあげて言ったその言葉に、私はなんて返していいかわかりません。本当に頑張りましたね、と思ったものの口には出せず、うなずくことしかできませんでした。その後、納棺式、通夜と進むと、奥様はまた、あの笑顔に戻り、お子さんやご親戚、ご友人と話をされていました。何となく後ろ髪引かれる思いでその場を後にしました。

折り紙でできた”金メダル”

それから2週間ほど経ったある日、葬儀会社の担当者さんから電話がありました。朝、式場へ寄ってほしいと言われ、指定の時間に行くと、久しぶりにあの奥様と娘さんにお会いすることができたのです。娘がどうしても渡したかったものがあると奥様が言います。すると娘さんは、手にもった小さな紙袋から折り紙で作った金メダルを出して言いました。

「パパをきれいにしてくれてありがとう」

私は嬉しくて女の子のもとに走りより、金メダルを首からかけてもらおうと、跪(ひざまず)きました。背伸びをして私の首にメダルをかけると、小さな手で私の頭をポンポンと撫でながら、「ありがとう」と笑うのです。

あっ、ご主人のいい子、いい子だ! はっとして奥様を見ると目が合い、彼女は「そうそう」と言うようにうなずきながら笑っていました。

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私のような納棺会社に所属している納棺師は普通、葬儀会社から依頼を受けて納棺式でご遺族のサポートをします。それは1時間~1時間30分という短い時間。このように何日も遺族と顔を合わせるということは多くありません。しかも、こんな風に後日、お礼を直接言っていただけるなどはあり得ないことなのです。この経験は私に納棺師という仕事に一生向き合っていこうと決心させました。

仕事の際にいつも納棺式の様子をメモしているノートがあります。故人様一人ひとりを忘れないように、日々の仕事に心が流されないように。いつも金メダルをもらえるように努力したいと思っています。

悲しみの感情に蓋をした状態の中、漏れ出てくるさまざまな反応には必ず意味がある。そして、ご遺族が出してくれるサインが、私にできる何かを教えてくれるのです。

大森 あきこ 納棺師

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おおもり あきこ / Akiko Omori

1970年生まれ。38歳の時に営業職から納棺師に転職。延べ4000人以上の亡くなった方のお見送りのお手伝いをする。(株)ジーエスアイでグリーフサポートを学び、(社)グリーフサポート研究所の認定資格を取得。納棺師の会社・NK東日本(株)で新人育成を担当。「おくりびとアカデミー」、「介護美容研究所」の外部講師。夫、息子2人の4人家族。

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