喪主なのにずっと笑顔、女性と4歳娘の悲しい理由 「いい子、いい子」してほしかった、彼女の想い

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納棺師として、4000人以上の方のお別れをお手伝いしてきた大森あきこさんが心動かされた実話をご紹介します(写真:SA555ND/PIXTA)
納棺師という仕事をご存じでしょうか――。亡くなった方の着せ替えやお化粧をし、生前のお姿に近づけていく仕事です。納棺師として、4000人以上の方のお別れをお手伝いしてきた大森あきこさんは、「深い悲しみの中に生まれるお別れの時間には、今なお心を動かされています」と言います。お別れの時間の持つ意味とは? 大森さんの著書『最後に「ありがとう」と言えたなら』より一部抜粋し、ベテラン納棺師が目頭を熱くした宝石のような実話を紹介します。

「喪主さんずっと笑っているんだよね」

「今回の喪主さん、旦那さんを突然亡くしたのに、ずっと笑ってるんだよね」

そう言って、葬儀会社の担当者さんは怪訝そうな顔のまま、私にドライアイスの入ったバッグを渡しました。納棺式を行っていると、突然の死別への反応として、なかなか周囲の人に理解してもらえない態度をとる方がいらっしゃいます。この時の喪主さんもそんな誤解を受けたひとりでした。

ご遺族とお会いしたのは季節外れの大雪が降った次の日でした。葬儀会社からの依頼は、お通夜までの6日間のドライアイスの交換と、通夜の前に行う納棺式です。亡くなったご主人は30代で、バイクの事故で突然帰らぬ人となりました。喪主の奥様も30代で小さなお子さんがいるとお聞きしています。大きなメイクバッグは心なしか、いつもより重い気がします。

安置室がある式場の敷地は朝早くから社員総出で雪かきをし、駐車場にアスファルトの黒い道ができていました。まるで「こちらです」とご遺族を誘導しているように見えます。

しかし、社員や業者しか使用しない裏の階段は、前日降った雪が固く張り付き、行く手を阻んでいるように見えます。メイクバッグを持ったまま、滑らないように恐る恐る歩き、安置室への入口がある階段の一番上に何とか到着しました。

ドアの前に立つと中から女の子の声がしました。会話というより笑い声が聞こえてくることに驚き、開けようと伸ばした手を止めます。しばらく耳を澄まし、笑い声が止んだタイミングで、「失礼します」と声をかけて中に入りました。

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