喪主なのにずっと笑顔、女性と4歳娘の悲しい理由 「いい子、いい子」してほしかった、彼女の想い
棺より一回り大きな保冷庫が3つ並ぶ部屋で、奥様とお子さんは、コンビニで買ったおにぎりを食べていました。ご挨拶をして、お顔の傷を目立たなくするメイクをする旨を伝え、お食事中だったので時間をずらした方がいいか、立ち会われるかどうかも確認します。
「どうぞどうぞ、男前にしてあげてください」
奥様はニコニコしながら話します。4歳になるというお子さんにも、「パパ、これからお化粧するんだって」と説明をします。正直、お顔の状態をまだ知らなかったので、このまま進めていいのか迷っていました。
「お線香、上げさせてください」と言ってドキドキしながら焼香台の前に行くと、小さく切り取られたガラス窓から、お父さんの顔が見えました。バイク事故だったとはいえ、ヘルメットに守られ、お顔の傷は頬の擦過傷と顎の内出血だけで思ったより小さなものでした。奥様とお子さんに囲まれ、傷を隠し、少し血色も足します。
笑っていないと泣いてしまう
「パパはおっちょこちょいだね、こんな怪我しちゃって」
奥様はお子さんに、まるでお父さんが生きているように話します。
「パパ、ダメだねー」
後を追うようにお子さんも言います。
それから4日間、奥様はわざわざ、私がドライアイスを交換する時間に合わせて、おにぎり持参でお子さんと一緒に安置室へ通ってこられました。もしかしたら、奥様は誰かと一緒にいることで自分を保っていたのかもしれません。
安置室で何度か会うと、少しずつ気持ちを話してくださるようになりました。ご主人は転勤族で周りには頼る人がいないこと、子どもが不安がっているから泣いていられないこと、それ以上に笑ってないと泣いてしまいそうになること。それを聞いてこちらが涙目になるのを見て、「何で納棺師さんが泣くのよ」と笑って私の肩を軽くたたくのです。
通夜になって九州の実家から奥様のお母さんがいらっしゃいました。少しほっとしているような奥様にひとつ提案しました。
「ご主人とおふたりだけの時間を作りませんか?」
奥様は少し下を向き、考えた後、決心したように顔をあげました。
「納棺師さんも一緒に来てくれますか?」
40名程が座れる式場には、白を基調とした花で作られた祭壇がしつらえられ、部屋中が花の香りでいっぱいです。特に香るのが白百合。中央には笑ったご主人の遺影が掛かり、奥様とストレッチャー(移動式のベッド)の上のご自身を見下ろしています。
ストレッチャーにゆっくりと近づき、冷たくなった手を握りながら決心したように、ご遺体のお顔を見つめてゆっくりと話します。
「頭を撫でて欲しいの……」
「いい子、いい子して欲しい……」
奥様の言葉が、ご主人に頭を撫でて欲しいということだと理解をするのに、少し時間がかかりました。
「頭を撫でてもらうことはできますか?」
今度は私への言葉です。
「もちろんできます!」
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