そごうに君臨したデパート王の栄枯盛衰 そごう元会長 水島廣雄氏を悼む

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興銀で辛酸をなめてきた水島。マグマのように蓄積されてきた鬱屈を怪物・正力にぶつける。結局、家賃をそれまでの半額以下に引き下げることに成功した。そごう関係者の間ではそのときの成功物語が伝説のように語られてきた。

それ以降、「水島マジック」と呼ばれる経営手法で、そごうは日本一の売り上げ規模の百貨店へ登り詰める。株式を上場していたそごうは有楽町(旧東京店)、大阪、神戸の3店を持つのみだが、グループ全体で見ると、国内で30店舗近くも展開する巨大チェーンであった。

「そごうの正確な財務内容は水島一人しか知らない」

上場するそごう本体ではなく、水島が株式の過半を持つ千葉そごうが事実上の持ち株会社の役割を果たす。グループ間で出資、貸付金、債務保証などが網の目のように交錯し、「そごうの正確な財務内容は水島一人しか知らない」と言われていた。

そごうは2000年に民事再生法を申請し、事実上の経営破綻に追い込まれる。水島は翌年、強制執行妨害容疑で逮捕される。06年には有罪判決が確定した。日本一から経営破綻、そして有罪判決。これほど波瀾万丈な人生もないだろう。

ここ5~6年は東京・築地の聖路加国際病院に入院していることが多かったようだ。聖路加国際病院名誉院長の日野原重明は水島の盟友であった。50年代、聖路加国際病院が人間ドックの普及活動を始めたとき、その旗振り役の一人が水島だった。「水島さんの時代は聖路加病院は大きなお客さんで、あの病院にはよく出入りしていた」とかつての外商担当者は振り返る。

生涯現役を貫く、医学界の巨人は盟友の死とどう向き合ったのだろうか。いや、まだ向き合えていないのか。これまでの沈黙は後者を意味するような気がしてならない。=敬称略= 

吹き抜け構造にシャンデリア、からくり時計……。かつての中産階級が思い描いたデパートの姿。それがそごうだった。
週刊東洋経済2014年9月13日号(9月8日発売)は、そごうを生み出した元会長で「怪物」と呼ばれた経営者、水島廣雄氏の102年の人生を振り返ります。
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堀川 美行 東洋経済 記者

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ほりかわ よしゆき / Yoshiyuki Horikawa

『週刊東洋経済』副編集長

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