歴史を動かしたプレゼン 林寧彦著

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歴史を動かしたプレゼン 林寧彦著

「プレゼン」はプレゼンテ−ション(提示・発表・伝達・公開)の原義を超えて、すでに標準的なビジネス用語となっている。プレゼンは単にテクニックやスキルにとどまらず、実人生の生き方に深くかかわっている。著者はこのことを3つのPで説く。

(プレゼント)のP、(プレゼンス))のP、(プラン)のPである。交渉相手に適切な贈与・好意・便益をプレゼントすること。そして、自己のプレゼンス(存在・人格)をセットにして「受け取って」もらうプランを立案することである。

言葉だけでは人は動かない。どうすれば相手を動かせるか、人は何によって動くのか。
「人たらし」と言われた先人の一群がいた。コロンブス、豊臣秀吉、大黒屋光太夫、クーベルタン男爵である。

カネは無いが知恵のあるコロンブス。トップの武将・柴田勝家を蹴落とそうとする末席の将校・秀吉。漂流10年の雇われ船頭・光太夫が異文化のなかで書き上げた嘆願書に見る「文書プレゼン」。古代オリンピックを復活させるプレゼンの中心に据えたコンセプトは「スポーツ」ではなかったクーベルタン。各章は確かな史料に支えられて一気に読ませる。

評者が特に採り上げたいのは、「根回し」や「人脈」の原型を読み取る思いがする豊臣秀吉である。著者は、名うての「たらしこみ」の名人が織田政権を継承する「清洲会議」で見せた大パフォーマンスを、「プレゼン学」で鮮やかに分析する。

各章末の教訓は道徳くさい「教訓」ではない。

たとえば第2章 、『あえて中座するという奇手もある』では、プレゼンテーターの資質とプレゼンの一体性が強調される。時には、3つのPに加えて、プレゼンテーターの資質を加味した4P が必要となるだろう。

ただ、歴史は一回生起的である。歴史から教訓をくみ取るには、先人の行跡に捉われすぎてはならない。本書では歴史とビジネスの世界を行ったり来たりしながら、プレゼン学を学ぶことができる。
(東洋経済HRオンライン編集長:田宮寛之)

新潮新書  714円

  

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