モデルナを甘く見る人が知らない驚くべき正体 製薬業界そのものを一変させる可能性を秘める

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現在モデルナには、コーポレートサイトによると、2つのコア・モダリティ――「予防ワクチン」「全身性分泌及び細胞表面治療」――と4つの診査モダリティ――「がんワクチン」「腫瘍免疫」「限局性再生治療」「全身性細胞内治療」――が存在し、これら6つのモダリティのもとに合計26 のパイプライン(プロジェクト)が走っています(2021年10月時点)。

モデルナが開発した新型コロナウイルス・ワクチン「mRNA -1273」は「予防ワクチン」モダリティのパイプラインの1つで、2020年度に商用化され製品販売にまで結びつきました。これまでも、「予防ワクチン」モダリティはBARDA (米国生物医学先端研究開発局)やDARPA(米国国防高等研究計画局)との助成金事業やメルクとの協業事業に結び付いています。

モデルナの成長戦略の本質

mRNAプラットフォーム戦略の目的は2つ。1つは新しいモダリティを見つけ出して特定すること、つまりモダリティを増やすことです。もう1つは既存のモダリティの有用性を拡大すること、つまり1つのモダリティのもとでのパイプラインを増やすことです。

『モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか』(インターナショナル新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

先に“mRNAは「設計図」なので書き直しや編集が可能”と言いましたが、その意味するところは新しいモダリティの特定であったり、既存のモダリティの有用性・応用性の拡大であったりします。そして、それらを通して、新しい治療法を発見したり、既存の治療法の有用性や応用性を拡大したりする。そうした作業を、DX化によって構築した好循環の自動化サイクルにできるだけ乗せていく。これがモデルナの成長戦略です。

新型コロナウイルスは変異を繰り返すため、モデルナの新型コロナウイルス・ワクチンは、変異に対応するための同パイプライン内プログラムを増やすことで、今後も研究開発が継続されなければなりません。また、一部に異物混入があったように、製造やサプライチェーンを含むオペレーションの過程ではまだまだ課題が出てくる可能性もあります。これらを含めて、引き続きモデルナの成長戦略を注視していく必要があるでしょう。

田中 道昭 立教大学ビジネススクール教授

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たなか みちあき / Michiaki Tanaka

シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)などを経て、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。主な著書に『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)など。

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