元寇「蒙古は神風吹く前に撤退決めた」驚きの事実 日本の反撃に貢献した対馬、壱岐での前日譚

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宗三郎は姫御前を背負い、海のほうへと駆け続けた。あちこちにある小さな洞窟のなかで、女子どもが隠れているのを気配で感じる。

「(……どうかみんな、見つからないでいてくれ)」

そう願いながら駆けていると、洞窟の中の母親が赤ん坊の口を塞いでいるのが見えた。思わず立ち止まり、周囲を見渡すと、蒙古軍は赤ん坊の泣き声を頼りに場所を突き止めて、斬殺を繰り返しているようだった。赤子が泣き声を上げれば、自分だけではなく、洞窟のみなが見つかってしまう。

「許して、許して……」

口を塞がれてぐったりした赤ん坊を抱えて、涙する母の口が静かにそう動くのを見ると、宗三郎はさらにスピードをあげて、がむしゃらに走った。川は血で真っ赤に染まり、あちこちに死体が転がっている。

「一体、どうして……なんで……こんなことに!」

思わず足がもつれそうになった、そのとき、一本の矢が飛んできた。

「危ない!」

思ったときには、すでに遅かった。背負っていた姫御前を降ろすと、その肩には、矢が突き刺さっており、ぐったりしている。

「毒か……今、矢を抜くから、お待ちくだされ」

そう呼びかけるが、姫御前は力を振りしぼって、懸命に首を左右に振る。

「……どうか行ってください、この国のために……」

そういうと、姫御前は懐から短刀を取り出して、即座に自らの首に突き刺した。蒙古軍に蹂躙(じゅうりん)されるくらいならばと、自死を選んだのである。

「姫! なぜ……」

宗三郎は地面に突っ伏して、号泣するも、すぐに立ち上がって駆けだした。

「伝えねば、絶対に伝えねば……」

なんとか海岸までたどり着くと、宗三郎は小さな船に静かに乗り込み、大宰府へと向かった。

北条時宗に対面して惨状を伝えたが…

「なるほど……蒙古軍は集団で攻めて来て、毒矢も使うと……」

「はっ」

これだけの緊急事態である。宗三郎は時の執権、北条時宗との対面が許されると、経験してきた惨状を述べた。

「私の主君、平景隆様は、家族とともに自害されました。私にすべてを託して……」

宗三郎が嗚咽を漏らすが、時宗が関心を持っているのは、あくまでも元の兵力とその戦法のようだった。

「お主が話したことは、対馬から来た者の話と一致するな。間違いなさそうじゃ」

宗三郎は時宗を見て、「え」と発して続けた。

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