中国が密かに警戒する岸田文雄首相の台湾政策 岸田氏の対中独自色めぐり、安倍元首相との綱引きも

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右派の識者からは早速、訪中招請は「中国の分断工作」と批判の声が上がる。一方、中国外務省のプレス・リリースによると、王は日中間の4つの政治文書の諸原則を日本側が順守し、「相互に脅威を与えない」合意を行動に移すことを期待すると述べたうえで、「歴史、台湾、その他の重要な問題は、二国間関係の政治的基盤」と強調し、(中国が容認できない)一線を越えないよう求めた。

王毅は2021年10月に開かれた日中関係のフォーラムでも、台湾問題で「一線を越えるな」と岸田政権に注文をつけている。岸田政権が台湾問題で「一つの中国」政策を逸脱しないようクギを刺したのだ。

日米安保を「対中同盟」に変質

日中外相会談の2日前の日本時間2021年11月16日には、バイデン政権誕生後初の米中首脳会談がオンラインで開かれた。両首脳は冒頭、笑顔で手を挙げてあいさつを交わし、会談は和やかな雰囲気で始まった。しかし3時間40分にも及ぶ会談が始まると、台湾、人権問題などで激しく応酬。台湾・人権問題での溝は埋まらなかった。

ただ、米中対立が予期せぬ衝突に発展しないよう対話継続では一致した意義は小さくない。お互い戦争は回避したいのだ。

台湾問題は日米関係でも最重要テーマだ。菅義偉前政権は、2021年4月の日米首脳会談の共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性」の文言を約半世紀ぶりに明記。日米安保条約の性格を「地域安定」装置から「対中同盟」へと変質させた。日米安保の大きな性格変更だが、立憲民主党を含め野党側の反対はなく、中国脅威論は今や日本の「翼賛世論」になっている。

その直前の2021年3月には、東京で日米外務・防衛相による安保協議委員会、「2プラス2」が開かれた。この時岸信夫防衛相はアメリカのオースティン国防相に「台湾有事では緊密に連携する方針」を確認。台湾支援に向かうアメリカ軍に、自衛隊がどのような協力が可能か検討すると約束した。

岸田や林がいくら独自色を出したくても、安倍・菅政権時代にアメリカ側と合意した安保・外交政策はそのまま継承するのが外交の基本原則だ。中国社会科学院の呉懐中・日本研究所副所長は「嫌中」「反中」「抗中」は「日本国内で政治的正義」になっており、支配的価値観の変化を意味する「パラダイムシフト」が起きていると分析した。

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