中国が密かに警戒する岸田文雄首相の台湾政策 岸田氏の対中独自色めぐり、安倍元首相との綱引きも

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岸田は2021年内の早い時期に訪米して日米首脳会談を実現、2022年初めにもワシントンで日米「2プラス2」を再度開きたいとしている。「2プラス2」では、台湾有事でのアメリカ軍の後方支援に向けて、集団的自衛権行使を容認する安保法制の法的枠組みをどう盛り込むかが焦点だ。

では、岸田はどのような対中観を持っているのだろう。第1次岸田内閣当時の2021年10月8日の所信表明演説で、岸田は「自由で開かれたインド太平洋」の推進を挙げ「国家安全保障戦略」、防衛計画大綱、中期防衛力整備計画(中期防)の改定を挙げた。いずれも、中国に向けた防衛力強化路線である。

日中関係については、日米同盟、日朝関係改善の後に取り上げており優先順位は低い。岸田は「普遍的価値を共有する国々と連携」して「(中国に)主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求める」と述べた。演説からは関係改善へのポジティブな姿勢は読み取れない。これを見る限り、安倍・菅政権が敷いた安保外交政策を踏襲している。今後、独自性を打ち出すとすれば、2022年1月の通常国会での所信表明演説になるだろう。

北京五輪、外交ボイコットも

そんな中、在京中国外交筋が強く関心を寄せるのが、岸田政権が台湾・人権問題で判断を迫られるいくつかの懸案である。人権問題では2022年2月の北京五輪だ。バイデンは新疆ウイグル自治区の人権問題を理由に外交的ボイコットを検討し、イギリス政府も追従する構えだ。岸田は「日本は日本の立場で物事を考えていきたい」としているものの、欧州連盟(EU)にもボイコットの動きが飛び火すれば、強い同調圧力にさらされる。

そして台湾問題では第1に、バイデンがホストになって2021年12月9、10両日、オンラインで開く「民主主義サミット」が挙げられる。台湾を招待しているが、蔡英文総統が参加するかどうかが焦点だ。アメリカ中心の「民主主義国」による対中包囲の場になり、岸田自身が参加すれば「一つの中国」違反として、中国は強く批判するだろう。

第2は、バイデン政権が2022年に明らかにする予定の「経済安保の新枠組み」だ。サプライチェーン(供給網)、デジタル技術、宇宙技術から中国を排除する枠組みになる。これに台湾が入れば、やはり「一つの中国」政策上、岸田政権は苦しい選択を迫られる。

そして第3が安倍訪台である。安倍は2021年7月末、メディアからのインタビューで台湾訪問の希望を表明した。これを受け、台湾の民間シンクタンクは、安倍が訪台すれば立法院(国会)で演説する準備に入ったという。安倍としては「親台、反中」世論を背景に最も効果的なタイミングを狙うはずだ。

独自色を出そうとする岸田政権に、立ちはだかるカベの第1は米中の綱引き。そして第2は安倍氏ら自民党内の「親台、反中」グループとの綱引きになる。

岡田 充 ジャーナリスト

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おかだ たかし / Takashi Okada

1972年共同通信社に入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て、2008年から22年まで共同通信客員論説委員。著書に「中国と台湾対立と共存の両岸関係」「米中新冷戦の落とし穴」など。「岡田充の海峡両岸論」を連載中。

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