「位置ゲー」はローカル線活性化の切り札になる スマホの『テクテクライフ』と釧網本線コラボ

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ユーザーの約9割、89.8%は純粋に「地図塗り」を楽しんでいた。モンスターの獲得・育成やバトルを重視した人はわずか8.4%だ。そして追加希望要素として6割が「スタンプラリー」を挙げ、次いで「地名や地域の豆知識」「名所などの観光情報」だ。RPGの嗜好は少数派だった。

「前作の企画段階から、観光要素を入れたい、スタンプラリーなどで地域を盛り上げたい、という構想はありました。でも当時の運営会社はゲーム性を重視したいという意向が強くて、観光要素は後回しにしたんです」と田村氏は語る。

アンケートを見れば田村氏の読みは正しかった。ユーザーは実際の地図でファンタジー世界を旅しようとは思っていなかった。リアルな旅を何らかの形で記録したかった。ファンタジーな位置情報ゲームはすでにある。リアリティこそが差別化だった。

『テクテクライフ』は課金機能として「バックグラウンド予約塗り」機能がある。スマホでほかの作業をしていても、GPSを受信してゲームに反映できる。この機能のおかげで、「常に画面を注視しなくていい」仕様になった。自転車やクルマを運転中も、列車に乗って車窓を眺めていても「予約塗り」できる。ゲームに「テクテク」とあるけれども、歩行時以外も楽しめる。この移動の自由さが旅や観光に都合がいい。

網走から届いた声

『テクテクライフ』は観光を楽しむゲームだ。前作で「シン・ゴジラ」とコラボした縁で、本作でも「ヱヴァンゲリヲン」とのコラボができた。第1弾はエヴァシリーズ25年を記念して、箱根で「第3新東京市めぐり」、第2弾は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』公開を記念して全国に5000カ所の「エヴァスポット」を展開。同時に名古屋鉄道で「名鉄 エヴァンゲリオンデジタルスタンプラリー2021」を開催した。

企業やコンテンツホルダーとのコラボで実績を作りつつ、最後の難関は「自治体の観光部門とつながりがない」ことだった。ちょうどその時、樋口氏から麻野氏に「網走の人々が関心を持っている」と提案があった。

団体臨時列車「テクテク釧網本線めぐり秋号」で乗客に取材する田村氏(左)と近藤氏(右)(筆者撮影)

「それを麻野から聞いたときは嬉しかったです。前作を構想するときから、ずっとやりたかったことでしたから」(田村氏)

釧網本線もまた、鉄道路線として再起動が求められている。JR北海道は安全面に支障があるほどの経営問題が明らかになり、国から事業の選択と集中について決断を求められた。つまり、存続できる路線を「選択」し、安全面の投資を「集中」せよ、だ。その結果、釧網本線を含む10路線13区間を「自社単独で継続的な安全なサービスを維持できない」とした。沿線自治体に対して、設備費用の負担や利用促進策を求めていく。折り合いが付かなければ鉄道は廃止、バス転換などを検討する方針だ。

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