日本人が恐れるべき「灰色のサイ」はどこにいるか 身近なリスクを見逃し続ければ巨大リスクになる

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もっとも、この中国恒大集団の信用不安は、すでにずいぶん前から指摘されてきたことだ。2017年に、中国の中央銀行である中国人民銀行の周小川総裁(当時)が、自ら「ブラックスワンの出現だけではなく、灰色のサイのリスクも防がなければならない」と述べ、その際に使われた「灰色のサイ」という言葉に注目が集まった。当時、すでに不動産市場に莫大な資金が流入していたことを指すものと考えられた。

経済、とりわけ金融マーケットではさまざまリスクが注目される。たとえば、リーマン・ショック時に使われた「ブラックスワン(黒い白鳥)」は、100年に一度出現するかどうかの極めてまれなリスクを意味しており、高い確率で深刻な問題を引き起こすもの、と認識されている。

1990年代の日本のバブル崩壊も、ずいぶん前から不動産価格の急騰や株価の暴騰に対して、警戒する声が報道されていた。そして、警告どおり実際にバブルが崩壊したわけだが、いまから考えればあれもひとつの「灰色のサイ」だったと言っていいだろう。

リーマン・ショックも「灰色のサイ」だった?

リーマン・ショック時も、その発端となった投資銀行「ベアースターンズ」系列のヘッジファンドが破綻したあたりから、その危うさが一部のメディアやアナリストなどから警戒されていた。そう考えると、リーマン・ショックなどのアメリカ不動産市場のバブル崩壊も、ブラックスワンというよりも灰色のサイ、といったほうがいいのかもしれない。

ちなみに、ブラックスワンと呼べるものはそう多くないのかもしれない。たとえばリーマン・ショックのような金融恐慌に近い危機は、かつては10年に一度程度の割合で、世界のどこかで発生していた。東日本大震災とかハリケーン・カトリーナといった大災害なども含めて、ある意味で「灰色のサイ」と言ってもいい。

もともと灰色のサイとは、アメリカの作家である「ミシェル・ワッカー」が、その著書「Gray Rhino」で示した言葉だ。不動産バブルなどの金融マーケットが抱えるリスクを称して灰色のサイと警告した。実際に使われたのは、中国の金融当局が初めてと言われるが、中国恒大集団のリスクは1社のデフォルト(債務不履行)に限定されずに、銀行の「理財商品」なども含めてもっと広範囲に及ぶリスクといっていいだろう。

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