日本人が恐れるべき「灰色のサイ」はどこにいるか 身近なリスクを見逃し続ければ巨大リスクになる

拡大
縮小

③地政学リスク……少子高齢化は自衛隊の人手不足にも大きな影を落としている。どんなに高額な武器を購入しても、その武器を使用する人間が育たないのであれば、有事には何の役も立たない。またデジタル化の遅れから、サイバー攻撃などに弱く、その点でも日本の地政学リスクの脆さは灰色のサイと呼ぶにふさわしい懸念材料となっている。

●中国●

①不動産バブル崩壊……これまで述べてきたように中国恒大集団の信用不安が拡大して、不動産企業の連鎖倒産が相次いだ場合、中国経済そのものを危うくさせる。同時に、これまで世界経済を牽引してきた原動力が失われ、日本経済やアメリカ経済にも少なからぬ影響をもたらすことになる。

②銀行債務問題……中国の不動産バブルが崩壊すれば、銀行もまた経営危機に陥る。理財商品の行方もクローズアップされており、銀行の債務問題も灰色のサイと呼ぶにふさわしい。

③覇権主義への懸念……習近平政権の最も大きなリスクは、その覇権主義にある。地政学リスクをちらつかせながら、台湾海峡や太平洋沿岸、インド洋沿岸に進出しつつある。この覇権主義のプロセスが成功した暁には、中国は世界一強大な国家になるのかもしれないが、歴史的に見てそう簡単にはいかない。習近平政権の崩壊も含めた覇権主義の失敗が中国経済最大のリスクと言える。

気候変動はいつしか「灰色のサイ」に

灰色のサイには、このほかにも大災害をはじめとして、大規模停電によるデジタルデータの消失、新型コロナを上回るパンデミックの到来、気候変動による森林火災や海面上昇による食糧不足や水不足などが存在している。

とりわけ、気候変動はかつて部屋の中の象だったのが、いつしか灰色のサイとなり、今では誰もが認識する大きなリスクとなった。あらかじめリスクとわかっていれば、そしてそのリスクを管理するためのマネジメントがきちんとできていれば、気候変動への対応策もまた違った選択肢があったのかもしれない。

岩崎 博充 経済ジャーナリスト

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いわさき ひろみつ / Hiromitsu Iwasaki

雑誌編集者等を経て1982年に独立し、経済、金融などのジャンルに特化したフリーのライター集団「ライトルーム」を設立。雑誌、新聞、単行本などで執筆活動を行うほか、テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活動している。『老後破綻 改訂版』(廣済堂出版)、『日本人が知らなかったリスクマネー入門』(翔泳社)、『「老後」プアから身をかわす 50歳でも間に合う女の老後サバイバルマネープラン! 』(主婦の友インフォス情報社)など著書多数。
 

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