開発協力の本領発揮に必要な「巻き込む」農業支援 多様なステークホルダーと「ミンダナオ和平」
落合:今は後継のプロジェクトを実施中です。同じ場所で、さらに質を高めることと、また別のところで広めていくことを推進してます。
もともと現地では高度な営農技術はありませんでした。本当に「そんなことも知らなかったのか」っていう世界です。一番初めに、2014年にこのプロジェクトをやるにあたって現場に行ったときにびっくりしたのが、稲の背の高さとそれを収穫する道具です。みんな稲穂が高いところに実る稲を使っていたんです。それを、鎌とかではなく矢じりみたいので切っていました。稲が低いと、みんな腰が痛くて大変です。だから背の高い生産性の低い稲でずっとやってる地域もありました。
高木:じゃあそれは新しい種を入れるところから始まるわけですね。
落合:そうですね。フィルライスから新しい高地で適用する収穫量の高い稲を供給してもらいました。それを使うにはいろんな工夫があるので、それも稲研究所の普及員にも来てもらって、指導してもらいました。そうしているうちに、フィルライスの人たちの警戒感もどんどんなくなってきたように思います。
住民主体のコーポラティブ形成
高木:お米を育てた後は販売ですが、販売に関してはどのような活動をしていますか。
落合:市場にお米を出すのは、個人レベルじゃなくてコーポラティブ(協同組合)を通すのが主流です。面白いのは、そのコーポラティブの大本になるのは、その地域で活動するMILFの軍事組織バンサモロ・イスラム軍(BIAF)の小隊レベルとか分隊レベルの集団です。小隊レベルには司令官がいますけど、その司令官を中心に、軍事目的にはBIAFですが、農業目的にはコーポラティブに変わりました。
高木:落合さんのおっしゃる半農半兵の世界ですね。
落合:そうです。実は、私たちは結局そうなるんだなと思ってたんですよ。日本の経験っていう意味では農協もあるし、いろんな統制農業みたいな形もありうるわけです。ただ、ミンダナオの場合はそうではないので、組織が必要です。多分、それがつくられる母体があるとすればBIAFなんだろうなと思ってたんです。実際、各地の司令官を中心に稲作が広まりました。われわれはせいぜい2ヘクタールぐらいしかやってないんですけども、最近は、もう100ヘクタールぐらいに増えたということです。