ならば、考え方、方針に沿いながら、失敗、うまくいかない時は、どうか。そういう時は、慰め、激励してくれたのである。「心配するな!」と、よく言ってくれた。
このときの感動は今も忘れることはない。昭和54年9月のこと。そのとき松下幸之助は、少々疲れた様子で、ポツリポツリと話していた。
「心配せんでいい」
「こないだ、きみがやってくれた仕事な、あれ、相当厳しく文句言うてきたS金属の会長さんがいたわな。きみの報告を聞いて、あれからいろいろ考えていたんやけど、まあ、きみの言うてるほうが正しいと思うわ。けど、正しいことだけで人を納得させることはできんときもあるな。そのことだけ分かっておればそれでよろしい。心配せんでええわ。後はわしに任せておきや。きみがわしの考えに沿って仕事をしたんやということを、ようその人に話しておく。うん、それよりな、こういうことで、きみ、志を失ったり、弱気になったりしたらあかんで。そこんところをしっかりと心に置いておかんと」
こういうことは、たびたびあった。「心配せんでいい。あとはわしに任せておけ」という言葉にいつも感動し、心のなかで涙を流していた。そういうことで、基本の考えを守って、仕事をしておれば、という思いが重なると、経営をやっていくとき、仕事をやっていくとき、とにかく松下からの基本の考え方に沿いつつ、事業に取り組むことが身についてくる。
経営者として、後半はほとんどというより、全く叱責されるというようなことはなかった。常に、松下の考え方、基本方針に沿うことを徹底して心がけたからだ。こういうことを考えてくると、松下幸之助は、叱るにしても、ほめるにしても、その基準がハッキリしていたから、実に、仕え易い「上司」であったと言えるかもしれない。
いまでも、この松下の「きみ、心配せんでいい。あとはわしに任せておけ!」という声がハッキリと聞こえてくる。それにしても、今、こういうことが言える経営者、上司がいるのだろうか。
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