安倍・谷垣ラインが直面する消費税判断 政権の命運左右も
他方、政府に近い関係者の間では、足元の経済のもたつきを背景に、消費再増税の時期を先延ばしすべきだとの声が強まりつつある。本田悦朗内閣官房参与は1日、増税による景気下振れは「想定外」に大きかったとし、消費税率10%への引き上げを2017年4月まで1年半先送りするのが望ましいとの考えを示した。「今が正念場」(西村康稔・前内閣府副大臣)と懸念の声も根強い。
最近のこうした発言の背景には、足元の景気が政府の想定より弱い動きとなっていることがある。
民間エコノミストは、すでに足元の景気状況を踏まえ、今年度の成長率見通しを引き下げている。日本経済研究センターが行ったESPフォーキャスト調査(民間エコノミスト42人対象)の8月予測では、実質国内総生産(GDP)見通しは0.67%に低下し、政府見通しの1.2%を大きく下回った。
来週発表される4─6月期GDP2次速報も、速報値を下回り、マイナス7%台に乗せるとの見方も出ている。
ただ、本田氏らの発言に対しては「最終判断時期が近ければ、市場が過度に反応する恐れもある。まだ遠い先のことで、市場の反応を試す狙いもあったのではないか」(政府筋)との見方も出ている。
消費増税先送り、抱えるリスク
10%への引き上げを先送りする場合、税法の改正が必要になる。問題は再増税時期をいつまで伸ばし、それをどのように税法に明記するかだが、調整は容易ではない。
先送り時期が明記できなければ、政府の財政再建への取り組み姿勢に疑問符が付きかねない。さらに2015年度に基礎的財政収支(PB)赤字を半減させ、20年度に黒字化させるとする政府の財政健全化目標もとん挫しかねず、専門家からは、財政の信認をつなぎとめることができるか疑問だとの声が浮上している。
小黒一正・法政大学経済学部准教授は先送りした場合、「海外からの日本の財政規律に対する信認が低下する」としたうえで「2016年には国政選挙もあり、政権内における法改正の議論で、永久に再増税が先送りになるリスクもある」と警告する。
さらに消費税は社会保障4経費(年金・医療・介護・少子化)の目的税として、10%までの増収分の使途が、既に法律で決まっている。
足元で15年度から施行される予定の子ども・子育て支援の充実や、低所得高齢者などへの福祉的給付など、社会保障の充実に充てられる予定でだ。先送りされた場合は、この財源をどのように確保するか、充実の範囲も含めて再調整が必要だ。
2014年の「骨太の方針」で、政府は2020年度のPB黒字化に向けて、来年夏までに、具体的な道筋を描く必要性を決定した。ひとたび財政の信認が崩れれば金利が急上昇し、経済再生にも跳ね返ってくるとの声は、政策当局だけでなく、一部市場関係者からも出ている。
経済再生と財政再建の両立でカジ取りを誤った場合、政権はこれまでの安定飛行から、急激な乱気流に巻き込まれる危険性が高まる。
(石田仁志 吉川裕子 編集:田巻一彦)
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