ゴーン氏報酬の助言し、掌返しで追放した人たち 責任追及を免れてきた利益相反行為の弁護士

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日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が羽田空港で身柄を拘束されてから3年の間、権勢を誇っていた元会長排除のために日産社内でどのような力関係が働いたかについて多くのことが明らかになってきた。一連の過程で主要な役割を果たしたにも関わらず、その役回りについて追及を免れてきた存在がある。弁護士だ。

世界最大級の法律事務所であるレイサム・アンド・ワトキンス(L&W)所属の一部の弁護士らは長年にわたりゴーン元会長の報酬のあり方について日産に助言を行っていた。その中にゴーン元会長が起訴された理由の一つとなった収入の総額を隠した報酬パッケージの問題が含まれていた。

東京拘置所を出るゴーン元会長(2019年3月)Source: Bloomberg

一方で、2018年にゴーン元会長の報酬問題が刑事事件の捜査対象となった際には、深刻な利益相反になるとの警告が日産取締役会に寄せられていたにも関わらず、同事務所は不正行為の調査担当に採用された。

会社によるゴーン元会長の不正行為の調査に「彼らが関与することに私は当初から懸念を抱いていた」と日産の元グローバル法務担当のラビンダ・パッシ氏は話す。パッシ氏は昨年、L&Wが日産の最善の利益のために行動していたかどうかについて疑問を呈したことで解雇されたとして、不当解雇で日産を訴えた。

「私は信じられないほど驚き、ショックを受けた。同じ弁護士が自身の関与した仕事を含む事案を調査するということがどのように思われるか。不正行為があってもおかしくない状況だった」。

日産は、ルノーとのより緊密な統合を進めようとしたゴーン元会長の計画が自分たちの地位を脅かし、自社の独立性が損なわれることを恐れた。しかし、社内の関係者らが自ら引き金を引くことはしなかった。

多くの主要な局面で、1980年代から日産の法務を担ってきたL&Wの存在があったことが数百枚に及ぶ文書やインタビュー、ゴーン元会長とともに逮捕されたグレッグ・ケリー元日産取締役の公判での証言などに基づいたブルームバーグの調査で明らかになった。

利益相反の立場にあるとのパッシ氏の指摘にも関わらず、日産が裁判対応も含めてゴーン元会長関連の案件処理に追われる中、L&Wは同社の最上位の顧問法律事務所の地位にとどまった。

日産はまた、世界各地で株主やビジネスパートナー、元従業員らから起こされた多くの訴訟にも直面している。ゴーン元会長のハリウッド映画的な逮捕・逃亡劇は人々の記憶から薄れたかもしれないが、日産にとっては赤字脱却や自動車業界の急激な変化に対抗するための努力の妨げとなっており、長引く影響として残っている。

日産広報担当の百瀬梓氏は「当社は確固たる、徹底した、かつ適切な社内調査」を進め、ゴーン元会長とケリー元取締役に「重大な不正行為があったことを確認」したとコメント。「その内容は、その後複数の政府機関が自身で実施した、綿密で独立した調査結果によって裏付けられています」とした。

百瀬氏はまた、「L&Wのクライアントは常に日産であり、日産の調査に関わることによる利益相反はありません。L&Wに利益相反があった、または利益相反の可能性により確固たる調査が行えなかったという主張は、事実に基づいたものではありません」とも述べた。 

L&Wはブルームバーグに宛てた声明文で、同社は「内部調査への弊社の関与については定期的に日産や同社の役員、パッシ氏を含む従業員らと議論してきた。彼ら全員が弊社の関与の継続について許可し、同意した」とコメント。

さらに、「レイサムは内部調査が偏っていたとするいかなる指摘にも強く異議を唱える。また、日米の多くの独立機関や司法当局がそれぞれ綿密な独立した捜査を実施し、内部調査と矛盾しない結論に至ったことも指摘しておく」とも述べた。

東京地裁に出廷するグレッグ・ケリー元日産取締役Source: Bloomberg

L&Wの東京オフィスのパートナーである小林広樹弁護士は、3月のケリー元取締役の公判でL&Wと日産の関係を詳細に説明した。小林氏らL&Wの東京オフィスの弁護士は日産の大株主であるルノーとの契約や子会社の設立、商業上の契約まであらゆることについて助言した。それには役員報酬の案件も含まれていたという。 

2018年の初頭、ゴーン元会長は、10年に報酬1億円以上の役員に関して有価証券報告書への報酬額の開示が義務づけられて以降、自主的に放棄していた収入の一部を取り戻す方法を探っていた。

ブルームバーグが確認した電子メールによると、18年7月3日、小林氏は、当時日産の法務責任者だったハリ・ナダ専務に、ゴーン元会長の退職前に退職金から元会長への報酬を支払う場合に求められる開示内容の要件について助言を行っていた。

このやり取りは、ナダ専務やケリー元取締役を介してL&Wに転送されたゴーン元会長からの質問に対する返答という形でなされた。弁護士らはまた、日産がゴーン元会長のためにブラジルやフランス、レバノンで購入した不動産物件を元会長に売却する可能性に関してもナダ専務に助言を行った。

ナダ専務 

小林氏が送信した電子メールによると、ナダ専務とケリー元取締役は、もし株主がゴーン元会長への早期の退職金支払いを承認したとしても「取締役報酬の開示をやり直す必要はない」とL&Wから伝えられたという。

ただ、遅くともその年の4月ごろまでには、L&Wはナダ専務に別件で助言を与えるようになっていた。事情に詳しい関係者とブルームバーグが確認した文書によると、ナダ専務は公開されない給与を用意するという刑事事件に発展する可能性がある行為について、ゴーン元会長が不利になるような情報を求めていた。

L&Wからナダ専務あてに送られたある電子メールでは、日産が有価証券報告書でゴーン元会長の報酬について完全に説明することができなかった場合、日本の当局から罰金や罰則、責任者の収監などを含めた介入を受ける可能性があることなどが説明されている。

電子メールの内容は、L&Wが日産社内の少人数のグループと仕事をしていたナダ専務に対して、金融商品取引法に違反している可能性がある報酬の支払い方法について助言を行っていたことを示している。資料によると、それらの電子メールのいくつかはナダ専務の会社のメールアドレスではなく、個人のアドレス宛てに送られていた。

報酬問題で主要なアドバイザーを務めていたにも関わらず、L&Wはゴーン元会長の逮捕後に、当時の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)から社内調査に関する正式な依頼を受け、これを引き受けた。事情に詳しい関係者によると、西川元社長はナダ専務の意見を受けてL&Wを起用したという。19年に日産を退社した西川氏はコメントを控えた。 

小林氏はゴーン元会長とケリー元取締役の逮捕から1年半後の19年9月の日産取締役会で社内調査の結果を発表し、この調査が最終的に両社の不正に関する公的な説明となった。

ゴーン元会長の広報担当者であるジュン・アイセンウォーター氏は「日産がL&Wと実施した日産の内部調査は利益相反の問題で汚点がついており、独立したものではない」とコメント。「まさに捜査対象となっていた案件について法務上のアドバイスを与えていたということで、日産の長年にわたる外部顧問としてL&Wは独立して事実を指摘する存在ではなかった」。

ケリー元取締役の米国における代理人を務めるジェームス・ウェアハム氏はL&Wについて自らが助言した案件についての調査を主導したという意味で「地球上で最も利益相反となっている法律事務所」だと表現。調査に関わることに同意するべきではなかったとした。

少なくとも六つの法律事務所が当時パッシ氏が率いていた日産の法務部門に対し、ナダ専務とL&Wに調査の責任者を継続させることについての法的なリスクや利益相反を警告した。そのうちの一つはルノー、もう一つは日産が採用した事務所だった。

「L&Wは調査の対象となっている事実に関与しており、証人として呼ばれる可能性があることを認めていることから、独立しているとはみなされない」。日産に採用された法律事務所のアレン・アンド・オーヴェリーは19年1月の書簡でこのように述べた。

     ゴーン元会長らの逮捕を巡る状況を精査するためにルノーに採用されたクイン・エマニュエル・アークハート・サリバンは、「レイサムは日産の役員報酬問題のさまざまな側面に深く、長期にわたって関与してきた。その結果がゴーン元会長にかけられた嫌疑の基礎となっている」とした。

調査の評価のためにパッシ氏によって雇われたクリアリー・ゴットリーブ・スティーン・アンド・ハミルトンと森・濱田松本法律事務所などもL&Wは刑事訴訟や内部調査の手続きから距離を置かれるべきだと警鐘を鳴らしていた。

クリアリー・ゴットリーブはこの記事に関するコメントを控えた。アレン・アンド・オーヴェリーとクイン・エマニュエル、森・濱田松本にもコメントを求めたが返答はなかった。

     元裁判官で19年に刑事手続きのアドバイス役として日産の法務部門に採用された山室恵弁護士も、L&Wが利益相反の可能性があるにも関わらずゴーン元会長の調査に関与していることに衝撃を受けたと日産の担当弁護士に伝えていたことが、19年7月の山室氏と担当弁護士らとの会合の要旨で明らかになっている。山室氏は取材に対してコメントを控えるとした。

その年の年末までには、ゴーン元会長の調査に携わったL&Wの東京オフィスの弁護士2人が退社していた。この弁護士らの当時の考えに詳しい複数の関係者によると、利益相反の案件に関わることで自分たちのキャリアに傷が付くことを恐れたためという。

ブルームバーグが確認した文書によると、日産の法務部門の責任者だったパッシ氏もナダ専務やL&Wが内部調査に関与することは、会社にとってリスクにつながると反対していた。裁判において日産を守れるかどうか危うくなるというのが理由だ。

ラビンダ・パッシ氏(2021年3月)Source: Bloomberg

その兆候は既に出始めているのかもしれない。日産はこのほど、米テネシー州で投資家が提起したゴーン元会長の報酬体系や内部調査に関する文書の提出を求める集団訴訟で和解に合意した。

日産はまた、多くの地域で元従業員から不当解雇で訴えられてもいる。そのうちのいくつかはゴーン元会長の件が関係している。

ゴーン元会長の逮捕以降、日産は調査のために数億ドル(数百億円)もの費用をかけて対応してきた。その規模はゴーン元会長が記載しなかったとされる約90億円を大きく上回っている。

 

 

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著者:リード スティーブンソン

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