「ものが言えない」恐怖で人を縛る会社の怖い末路 「言ったもん負け」か「何を聞いてもよい」か

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本書では逆のケースも紹介されている。グーグルは「最高のチームをつくる要因」を突き止めるために「プロジェクト・アリストテレス」を立ち上げ、数年間かけて全社180チームを分析した。そして心理的安全性は、イノベーションを生むためにも必要であることを明らかにした。

同社で抜群に有能な優秀社員も例外でなかった。イノベーションは、さまざまなアイデアを生かして新しい組み合わせを発見して、さらに失敗を恐れず挑戦することで生まれる。自由に意見交換することで、アイデアが新しいアイデアを生む好循環ができる。さらにリスクをとって失敗することが許されれば、新たなことに挑戦するようになり、自然とイノベーションが生まれるのだ。

(画像:『世界の起業家が学んでいるMBA経営理論の必読書50冊を1冊にまとめてみた』より)

かく言う私も、日本IBMで部長として預かった組織は、ありがたいことにまさにこのとおりの組織だった。チームメンバーは遠慮なく意見してくれた。おかげで私一人では絶対に思い付かないさまざまなアイデアを得る事ができ、チームの成果を大きく上げることができた。もし「上司に意見を言うなんて論外。立場をわきまえろ」という組織だったらこのようなアイデアは集まらないし、新しい発想もなかなか生まれない。そんな組織が低迷するのは当たり前だ。

この心理的安全性という概念がわかれば、冒頭の三菱電機とソニーの違いもわかるはずだ。職場では本音が言えない三菱電機は、心理的安全性が低い組織だった。平井氏が挑戦したのは、本来の実力を発揮できなくなっていたソニーで、創業当初の自由闊達な組織文化を取り戻すために、心理的安全性が高い組織へと変革する戦いだったのだ。

この対称的な2社の事例から学べることは大きい。

「日本文化に染みついた慣習」は、単なる言い訳

日本企業は1980年代まで絶好調だった。当時、日本企業が好調な理由は「日本的組織にある」と言う論者も多かった。しかしバブル崩壊後、多くの日本企業は一転して低迷。「失われた30年」と言われるようになり、さらに不祥事が頻発すると、その理由は「日本的組織にある」と言う論者も増えている。たとえば本書では東京電力・福島第一原発事故を詳細に分析しており、調査委員会の黒川清委員長が事故報告書に記した言葉を引用している。

「根本原因は日本文化に深く染みついた慣習──盲目的服従、権威に異を唱えないこと、『計画を何がなんでも実行しようとする姿勢』、集団主義、閉鎖性──のなかにある」

この報告書に対して、エドモンドソンは異を唱えている。

「黒川が挙げた『深く染みついた慣習』は、いずれも日本文化に限ったものではない。それは、心理的安全性のレベルが低い文化に特有の慣習だ」

VWの排気ガス不正も、東京電力・福島第一原発事故も、そして三菱電機の品質不正も、心理的安全性が低い組織であるがゆえに起こっている。確かに「日本文化」も影響しているだろう。しかしそれは一要因にすぎない。

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