「ものが言えない」恐怖で人を縛る会社の怖い末路 「言ったもん負け」か「何を聞いてもよい」か
三菱電機のように社員が本音を話さない組織がある一方で、変革後のソニーのように社員が自由活発に意見する組織があるのは、なぜか。それを解くカギが、ハーバード・ビジネススクールの組織行動学者であるエイミー・C・エドモンドソン教授が提唱する概念「心理的安全性」という概念だ。
心理的安全性とは、集団の大多数が「ここではなんでも言えるし、心おきなくリスクがとれる」と感じる雰囲気のこと。心理的安全性が低い組織では、社員は何も情報を出さなくなる。逆に心理的安全性が高い組織では、社員は安心して活発に議論するようになる。
エドモンドソンは、「人々が一丸となり最高の仕事ができる職場環境をつくるには、何をすべきか」という研究を続け、その成果を2018年刊行の著書"The Fearless Organization" (邦訳『恐れのない組織』英治出版)にまとめた。この心理的安全性の概念がわかれば、不祥事を隠し続ける組織を変革し、高い成果を生むチームをつくるポイントがわかる。では心理的安全性は、具体的に組織にどのように影響するのか。
フォルクスワーゲンが起こした、世界的不祥事
本書では2015年に大スキャンダルを起こしたフォルクスワーゲン(以下、VW)を詳細に分析している。当時「世界一の自動車メーカー」を目指していたVWは、アメリカの厳しい窒素酸化物(以下、NOx)排出テストに合格するために、排出テスト中だけNOx排出量を下げるソフトウェアを不正に組み込んだ。10年後、不正がバレて大問題になった。VWは販売を停止。時価総額の3分の1が失われた。「私は不正行為をいっさい知らなかった」というCEOは辞職した。
しかしエドモンドソンは「原因はそのCEOだ」と指摘する。CEOは悪い報告をすると大声で罵倒する人物。「ムチを見せないと社員はサボる」と考え、社員を恐怖で支配する文化をつくり出した。VWはまさに心理的安全性が低い組織だったのだ。こうして組織のパフォーマンスは一時的には上がるが、決して長続きしない。むしろ弊害が実に大きい。
心理的安全性が低い職場では、従業員はいいアイデアがあっても、何か問題があっても、黙ってしまう。著者たちはその原因を探るため、さまざまな現場でインタビューした。ある工場の製造技術者はこう言った。
「子どもたちが大学に通っているんです」
一見意味がよくわからない答えだが、実は切実な答えだ。隠された本音はこうである。
「率直に話すなんて危ないまねはできない。私は仕事を失うわけにはいかないんです」
心理的安全性が低い組織で黙ってしまう人間の本能は、著者たちが出会ったこんな言葉にも表現されている。
「沈黙していたために解雇された人は、これまで1人もいない」
身に覚えがあるビジネスパーソンは少なくないかもしれない。
人の上に立つ人にぜひ覚えておいてほしいことがある。このように大事な場面で社員が意見を言えない状況は、見た目だけではわからない。外から見えないから、マネジャーは軌道修正できないのだ。
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