永守重信「人の心をつかんでこそリーダーだ」 日本電産の創業者がいま世の中に訴えたいこと
小さい頃、私はよく母に連れられて京都の東寺の縁日に行ったが、母は心の機微をつかむのが上手だった。綿菓子の露店の前で、「ほしい」といっても、「ぜいたくだ」といって買ってくれない。そんなことが何度も続き、「今度こそは盗んでやろう」を思っていると母はすんなり買ってくれる。私の心はすべてお見通しなのだ。
会社や職場でもこれは同じで、上司が部下の心の機微をつかんでいれば、部下は楽に働け、のびのびと力を発揮できるだろう。心の機微をつかむとは、厳しさとやさしさを時と場合に応じてバランスよく発揮していくこと。叱るべきときには徹底的に叱るが、そのぶんの心配りを忘れないことでもある。
とくに昨今の若い人たちは、ただ激しく叱るだけでは逆効果である。最初は「ほめる」を大きく、「叱る」を小さくから入っていきながら、「叱る」をだんだんと大きくしていく。このように、「ほめる」と「叱る」をバランスよく織り交ぜていく〝ハイブリッド式叱責法〟が必要である。
また、リーダーに求められるのは「訴える力」である。自分の情熱、理念、ビジョン、夢などを、聞くものの心に染み込み、魂を揺さぶるまで、何度となく語り続けなければならない。私はこれを「千回言行」といって、自ら実践している。
人は目でみたり、耳で聞いただけでは動かない。自らの意思で行動するためには、その理由がしっかりと腑に落ちていなければならない。千人全員に理解させるには、同じことを千回言わないといけないのだ。
時代の流れを見据えてつねに変化し続ける
1983年、私は精密小型モータの市場で主流だったFDD(フロッピー・ディスク・ドライブ)用モータから撤退し、まだ受注量も少なく発展途上にあるHDD(ハード・ディスク・ドライブ)用モータの開発・製造に全ての経営資源を集中した。
はたして、1980年代後半からパソコンの小型化・薄型化の流れが一気に加速し、HDD用モータの需要は拡大して業績は伸び続けた。日本電産はこの分野のトップメーカーとなったのである。
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