今の日本に「バラマキ政策」適さないシンプルな訳 財政出動は「乗数効果」「雇用の質」基準に増やせ

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問題は全要素生産性、つまり「③どれだけ賢く働いたか」です。実は、この全要素生産性がGDPを成長させる一番の原動力です。

同じ数の人間が同じ設備で働いても、企業によって生産性が違う場合、全要素生産性が違うと考えられます。経営戦略の適切さ、雇った人をどのように使うか、技術の違いや技術革新、規模の経済の違いなども全要素生産性で把握されます。

日本の場合、全要素生産性が伸びていないので、賃金が上がらないのです。

言うまでもなく、この問題は政府がただ単に景気対策のためのバラマキを行っても解決できません。需要が増えたからといって、絶対に労働生産性の向上が起こるという保証はないのです。

そもそも、需要と労働生産性の向上は相関していませんし、因果関係もありません。MMTの議論もベーシックインカムの問題も一切関係ありません。

よって、政府は、技術革新、革新的技術の普及、労働人口の再教育、産業構造の変革などを推進するべきなのです。

「乗数効果」「雇用の質」を基準に財政支出を増やせ

日本政府はしばらくの間、総合的な産業政策を実施してきませんでした。

そろそろ、どの先進国でも行っているきちんとした産業政策を構築していただきたいと切に願います。

財政出動は、インフレ2%目標や消費税減税ではなく、研究開発費、設備投資、人材投資を中心に、日本人労働者の賃上げにつながる支出に集中させるべきです。また、財政出動するかどうかの判断基準は、インフレ率2%の目標などではなく、乗数効果に置くべきです。

ここまで数回にわたり、日本の財政政策について連載してきました。本連載で何度も主張したとおり、私は緊縮財政を唱えているのではないということは、改めて強調しておきます。

乗数効果が1以上で、「雇用の質」を高めるという条件を満たす支出先を賢く探し、いまよりも財政支出を増やすのが、日本がとるべき道です。バラマキではなく、賢く使うべきなのです。

今回で、財政政策についての連載を終了します。お読みいただき、ありがとうございました。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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