団塊ジュニアを待つ「ひどい未来」に生き残る条件 10年後、定年を迎え始める世代に不可欠な心構え

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私たちが直面しているのは、歴史的には、典型的な格差社会である。たとえば第1次世界大戦の直前、イギリスでは、上位10%の富裕層が国の私有財産の92%を所有していた。古代ローマでも、もっとも裕福な世帯の私財は、当時の人々の平均年収の150万倍もあった(これは、ビル・ゲイツの私財とアメリカ人の平均年収を比較したときの倍率とちょうど同じくらいである)。

人文科学者ウォルター・シャイデルは、歴史において、このような著しい不平等を解消したのは、大量動員戦争、変革的革命、国家の破綻、致死的伝染病という4種の暴力的な破壊「だけ」であったことを明らかにした 。シャイデルによれば、税制改革や都市部での暴動程度では、過去の著しい不平等は解消されなかったのである。

本当に大変な状況になってからでは遅いけれど

人間というものは、どうしようもなく予防が苦手な存在である。歯が痛くならないと、歯医者にはいかない。病気にならないと、健康な生活を心がけることもない。失業しないと、新たなスキルを学ぼうともしない。ただ、それが人間らしい人間であるとするならば、それを嘆いても仕方がない。

「大変な未来になるから、備えておきましょう」という言論では、人は動かないのである。昨日と同じ今日を過ごし、今日と同じ明日を期待するのが、人間の限界なのだろう。そうした限界を押し上げるという努力も必要かもしれない。しかし、私にはそれが現実解になるような気がしない。

現実解としては、60歳以上の人材を含めて、多数の雇用を必要とする産業が興ることが、日本に暮らす多くの人々の未来を明るいものに変える。現時点で見えているのは、2025年度には約32万人、2040年度には約69万人が不足するとされている介護業界である。幸いなことに、介護は、人工知能に奪われない仕事のトップ5に入る。

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貯蓄の足りない、団塊ジュニア世代の多くが、介護業界に職を得ていく未来は、はっきりと見える未来である。ただし、介護業界は、業界としては最低賃金かそれに近い業界である。より良い未来を実現するには、介護業界の(生産性向上や保険外収益の向上による)賃金の改善や、イメージの刷新が必要になるだろう。また、定年となる人材に対する介護技術の研修などは、国が主導する必要もありそうだ(介護は誰にでもできる仕事ではなく、スキルが求められる仕事なので)。

世界で最も高齢化している日本だからこそ、介護業界の生産性を徹底的に高め、もって輸出産業として育成していく必要がある。そのために、より多くの投資が、介護業界に投入されなければならない。それに失敗し、このような記事が「予言」として、団塊ジュニア世代が振り返る対象にならないことを祈るばかりである。

酒井 穣 株式会社リクシス 取締役副社長CSO

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さかい じょう / Joe Sakai

1972年、東京生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。Tilburg 大学 TIAS School for Business and Society 経営学修士号(MBA)首席(The Best Student Award)取得。商社にて新事業開発、台湾向け精密機械の輸出営業などに従事後、オランダの精密機械メーカーにエンジニアとして転職し、オランダに約9年在住。帰国後はフリービット株式会社(東証一部)の取締役を経て、独立。複数社の顧問をしつつ、NPOカタリバ理事なども兼任する。主な著書に『新版 はじめての課長の教科書』(ディスカヴァー)、『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト』(光文社新書)など。

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